『太陽の悪戯』「暑い…」
その一言で部屋の温度が上がった気がするのは気のせいだろうか。
我進ギルドのビル中央階のオフィスは現在エアコンが故障しており、太陽の熱がしっかりと実感できるほどの暑さ。
外気温は40度を超え、コンクリートで出来たこのビルの中はそれ以上に暑い。
「も、諸菱くん……扇風機…」
「は、はぃ…」
書類にぽたりと汗が落ちるが、気にせず置いてあった扇風機の頭を旬の方へと向ける。
「あぁ~……」
「今日は暑すぎますね……もう家に帰りたい…」
「家に帰っても、暑いだろ……」
「それもそうでした…」
先日ダンジョンブレイクしたゲートから一匹のモンスター。対して強くないD級モンスターだったか、すばしっこく中々捕まらなかったのか特徴だった。そしてなにより、人間を狙うのではなく何故か室外機。
二日間かけて倒したものの東京のほとんどが壊されてしまい、どこもエアコンが効かない状態だった。
「ハンター協会に行ったら涼めるかな…」
「僕も行きたいです……無理ですこの暑さ…」
汗で染みついた服をパタパタとあおぎ、ハンカチで顔を拭くが、そのハンカチもまるで水に濡らしたかのように、重みがある。
旬は重い体を起こし、ハンター協会に向かった。
「水篠ハンター……どうも……」
「犬飼課長……」
いつもなら黒いスーツ、長袖のシャツを着ている犬飼は、半袖のシャツを着ている。あまりにも暑すぎるのがやはり中のTシャツも透けて見える。
「ここも、効いてないんですね…」
「えぇ、先日のダンジョンブレイクのモンスターにほとんどやられてしまいましたから……治るのは三日後でしょうか…」
「うぇ…」
「水篠さぁん……暑いですぅぁ…」
「やめろっ、くっつくな暑いッ!」
腕に引っ付く諸菱を振り払い、更に暑くなった体を冷やすために服を端を持ってぱたぱたとあおぐ。
「おや…水篠ハンターじゃないですか……」
「おー、水篠ハンターか」
「…どうも」
軽装…いや、二人も同じく暑いせいでシャツ一枚。最上に関しては中々珍しいスタイルで、思わずじっと見てしまう。
「おいおい、最上にお熱か?俺はどうよ」
「は?え?……いや…珍しい恰好だと」
「まあ確かに…普段スーツですから……こんな日は流石に着ていられませんよ……暑苦しい…」
髪を掻き上げ汗を手で拭く。熱気のせいで若干メガネも曇りかけている。黒須はちらりと旬の恰好に目を逸らしたくなる光景だった。
「なあ、水篠ハンター」
「…はい?」
「乳首透けてるぞ」
「ちっ―――!?」
急いで下を向けば確かに汗で透けて見えている。瞬時に両手で隠すがさらに変な感じに見えるので段々顔を赤くする。
「普通はインナー着るんだよ、何も着てないと透けてみえるぞ?」
「いいんじゃないんですか?僕達にとっては、絶景じゃないですか」
「水篠ハンターの乳首、ハンター協会で大公開ってか…?」
「変な事言わないでくださいッ!」
適当にアイテム欄から悪魔城で使ったマントを取り出して体に巻きつける。多少効果は出ている気がするが、やっぱり羽織ると……
「暑いッ!!」
ダンジョンではないこの場所では効果が少なすぎてむしろ逆効果だった。すぐに脱ぎ捨てるとまたもさらけ出す状態になり、ささっと胸を隠す。
「その隠し方は逆効果じゃねぇか?」
「う、煩いです」
「よく見えませんね…手を退かしてください」
「嫌に決まってるじゃないですか!!」
「お二人とも、そろそろ水篠ハンターを苛めるのはお止めになられては?」
えー、楽しいじゃねぇか。と黒須はにやりと笑った瞬間、旬の後ろに回って服を捲り上げる。
その場にいた最上と犬飼は晒された二つのピンク色。その光景に静止し、声を掛けても動かない。
「…黒須ハンター、歯を食いしばってください」
「へ?――――――――ぶぁっ」
思いっきり顎下から拳で殴られた黒須は、宙へと舞い上がり遠く空の彼方へと飛んでいった。
翌日美濃部の手により治療された黒須が土下座で旬に踏まれていたが、黒須は大喜びしていたとか…。
おしまい
ちなみに暑さで諸菱はログアウトしてました。