冬になると眠ってしまう女の子のお話三ねぇ、来たよ。
ドアを開けて、眠りについた君を見つめて声を掛ける。
最後に言葉をかわした日から何日経ったのだろう。
何日僕はそう呟いて君の枕元で君の耳に届いているかどうかもわからないくだらない話をしただろう。
早く春が来ればいいのにと、君に呟くのが帰る前のルーティンになっていた。
前の年ももそうだったのかもう記憶にないけれど。
きっと来年君と言葉をかわしたとき僕はまた君に恋をする。眠っている間には分からないきれいな瞳に。君ののどから出てくるかわいらしい声に。
愛しすぎて、もしかしたら涙がこぼれてしまうかもしれない。
「ねぇ、」
「何。」
「どうして冬になるとすぐに帰るの」
「すぐに暗くなるからだよ。」
「嘘つきだ。」
「嘘じゃない。」
「毎日毎日、誰のところに行ってるの」
「誰だっていいだろ。」
「ほら、やっぱりまっすぐ帰ってない。」
クラスの女子が帰宅準備を急ぐ僕に話しかけてくる。
「…別に何でもいいだろ。」
「それが、良くないもんで声をかけてるんだよ。」
君とは大違いだ、と言えば君はどんな顔をするだろうか。
「親戚に会いに行ってる。」
「…そ。」
そう答えると、やっと彼女は僕から興味をなくしたようだ。
これでまた君に会いに行ける。
教室を抜けて、足早に廊下を進む、靴を履き替えて歩いて駅までの道のりの途中で一輪だけ花を買い電車に飛び込む。
春まで、あとどれくらいだろう。
真っ暗闇の中、せめて香りだけでも君のもとに届けばいい。
だから花を買っていくんだよ、あぁ、今日も僕が来たんだってわかるように。