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    lunatic_tigris

    @lunatic_tigris

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    lunatic_tigris

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    「覚えていてはいけないことだから、わたしは」
    だから、記憶には蓋をして。

    鏡の幼少期(軟禁)の話です。ちょこっとよその子(小さい頃のオロチさん)。

    ##機密隊高月

    見えない鍵と箱の中 この前、家の近くで人が死んだそうです。子供が一人、いなくなったそうです。それからわたしは、ずっと家の中にいます。
    「出てはいけないよ。お外は怖いからね」
     そう繰り返し言いながら、お母様はわたしの頭を撫でるのです。そうして、わたしをひとり置いて行くのです。
     寂しかったらテレビも見ていいよ。冷蔵庫の中の食べ物も好きに食べていいよ。何をしてもいいよ。
     この家から出ないなら、何をしても。
     でも、どうしても何かをする気にはなれないのです。わたしは、お外に出たいのです。
     お母様とわたしと、それから時々お父様。それでは駄目なのです。わたしは、わたしは、もっと動きやすい服の方が好きです。同い年の子供達と遊ぶことが好きです。走り回る方が好きです。男の子みたいな遊びが好きです。
     どうして、それは駄目なのですか。
    「いけないことだからよ」
     どう問いかけても返ってくるのは、ただその一言だけ。
     わたしととてもよく似た顔のお母様。お母様は絶対に正しい。だから、お母様の言うことは絶対。
     ――だけど、実は約束を破ったことがある。これはまだ、お母様も知らないはず。
     男の子と必要以上に話してはいけない。「あの子」と関わってはいけない。その二つの約束をわたしは破ったことがある。
     小さな弟がいる、近所に住んでいたおにいさんのこと。関わってはいけない、と言われていたひと。でも、そんな気はしなくて。なんとなく話しかけてみたら変な子供だと言われたけれど、本当は優しいらしいひと。
     何故だか、手を伸ばしたくなるひとだとは思った。
     またね、って言ったのに、その次の日からわたしはずっとこの家にいる。正直、何日経ったのかもわたしには分からなくて。ずっと寝ているような、夢の中のような気がする。
     玄関先に立てば、震えが止まらなくなる。約束を破ってもお母様は怒らない。でも、約束を破った時のお母様はなんだか怖いことを、わたしは知っている。どうして怖いのかは分からないけれど。
     鍵は持っていなくても、ドアを開けて、外に出ても誰も分からない筈なのに。どうしてもその一歩が動けない。足が震えて立てなくなりそうになる。
     だから今日も出ることを諦めて、自分の部屋に戻る。部屋がちょっと薄暗い理由を私は知っている。カーテンの向こう。外から閉じられている鎧戸。
     あのおにいさんは、大丈夫なのかな。実は名前も知らないのだけど。
    「その好奇心、いつか痛い目を見るぞ」
     言われた言葉を思い出す。
     そうかな。お母様に知られたらそうなるのかもしれない。けど、あの時間は悪くはなかったんじゃないか、と思ったりする。
     でもきっと知られたら、おにいさんに迷惑がかかるんだろうな。それは嫌。……なら、忘れなきゃいけないのかな。おにいさんもわたしのことを忘れちゃったら、無かったことになるのかな。嫌だけど、忘れなきゃ。お母様にも分からないように。そんなことをずっと考えていたら、段々とおにいさんがどんな顔だったのかも、どんな声をしていたのかも思い出せなくなる。まだ、目の色だけは覚えてるけど。――綺麗な虹色と、わたしとは違う青。
     電気の明かりで照らされている部屋で、わたしはふかふかのベッドにダイブした。呼んだって誰も答えてくれない。今は「鏡の向こうのお友達」の声も聞こえない。
     お母様、お母様、ねえ、お母様。

    「……さびしい」

     ねえ、ここから出して。
     
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