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    わかめ

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    わかめ

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    アダムがシュネちゃんに指輪を渡す話

    指輪/アダシュネ久しぶりに実家に帰っていた海夢は、同じく久しぶりに帰って来たであろう兄の陸夢とテーブルを囲み向かい合わせに座っていた。
    ふと兄を見てみると、左薬指に指輪が嵌められているのを幸せそうに眺めている姿が…。

    「指輪、どうしたの?」

    陸夢に彼女なんて居ただろうか?…何て思い返してみるけれど、仕事の忙しさで家族からの連絡をサラッと流していた海夢には分かった話では無い。

    「あぁ、これは記念日の為に買ったペアリングなんだ。結婚もしようと思ってる。海夢に今度紹介するよ。」

    「…結婚。」

    (俺には程遠い言葉だな。)

    結婚することは出来ないけれど、指輪を贈ることは許されるだろうか?
    自分が彼を縛ってしまって大丈夫か…なんて、そんな考えを巡らせながら、海夢は自分の薬指を見つめた。

    「何だ、海夢にもそういう相手がいるのか?もしいるなら記念日、ちゃんと大事にしてやれよ。お前はそう言うのに敏感だったのに最近は鈍感だろ?」

    確かに、昔は何でも知りたがる海夢にとって記念日やイベントは絶好のネタだった。
    でも大人になるにつれて自分の誕生日を忘れてしまうぐらいにイベントに疎くなってしまった。

    「うん。」

    「あぁそれと、贈り物をするならちゃんと意味とか考えた方がいい。気にしない女性もいるけど、自分で考えてるだけでも楽しいだろ?」

    そういう陸夢は、心底幸せそうな笑顔で海夢に指輪を見せた。
    その笑顔をみると兄がどんな気持ちでこの指輪を
    選んだのか話を聞かなくても分かる。

    「兄ちゃんが幸せそうで良かった。」

    「ははっ、お前の惚気話も兄ちゃんは大歓迎だぞ!」

    陸夢はそう言いながら海夢ににっと笑って見せた。

    (兄ちゃんに言ったら事が大きくなりそうだな…。)

    陸夢は昔から海夢に甘いところがあって、自慢ごとがあると直ぐに両親やお手伝いさんに行って回っていた。
    恥ずかしいような、懐かしい記憶だった。

    (記念日…、いつだったかな。)


    _


    今日は久しぶりに海夢と実紅二人の休みが重なり、海夢の家で過ごしていた。
    ご飯を食べて、話をして…そんなまったりとした時間を過ごしていたからか、海夢がお手洗いから帰って部屋に入った時には実紅は夢の中だった。
    普段の仕事の疲れだろう、ソファーに座り…こくんこくんと頭を上下に揺らしていた。
    このままでは前に倒れかけるかもしれない…と、海夢は実紅の体をそっと横にした。

    (良く眠ってるな。……今なら測れるだろうか?)

    ふと先日の兄とのやりとりを思い出した海夢は、毛布を取ってくるついでに太めの糸とペンを用意した。
    毛布は静かに実紅にかけてやり、太めの糸は実紅の指の付け根に巻き始めた。

    (…どの指がいいんだろう?)

    糸を指に巻いて実紅の指のサイズを測ろうとする海夢だが、まだどの指の指輪を贈ろうか考えておらず、その場に固まる。
    少し考えてみても決まらなかったのでとりあえず左手の全ての指を測った。
    実紅の指のサイズを測った糸は見つからないよう違う部屋へ隠す為、海夢は隣の部屋へと向かった。

    実紅のいる部屋に戻ると、実紅は目を覚ましたのか、体を起こしてソファの上で蹲っていた。

    「起きたの?もう少し寝ててもよかったのに。」

    「……うん。」

    (バレたかな…?)

    後ろから見える実紅の耳が少し赤くなっていることに海夢は少しの焦ったが、特に聞かれることは無かったのでそのままにしておくことにした。


    _________1ヶ月後。

    今日は海夢が待ちに待った実紅と付き合った記念の日。
    今まで記念日を祝わなかったわけでは無いけれど、こうして前もって準備してというのは初めてで、海夢は少しながら緊張していた。

    二人とも夜しか空いておらず、ディナーをしようと実紅から誘ってくれ、今は丁度デザートを食べようとしていた所だった。

    「実紅…、実は渡したいものがあるんだけどいいかな?」

    「勿論いいよ、なぁに?」

    これから何をしてくれるんだろう?という淡い期待の篭った実紅の視線に、海夢はより緊張して言葉を発する声が震える。

    「目を、瞑っててほしい。」

    「うん。」

    了承の声と共に、実紅の眼は静かに閉じられた。
    完全に閉じられたのを確認して、海夢は静かに席を立ち上がった。
    プレゼントが入った箱からプレゼントを取り出して、実紅の首にそれをかけた。

    「目を開けて。」

    海夢の声を聞くと、実紅は静かに眼を開けて自分の首にかけられた物を確認した。
    嬉しそうではあるものの、実紅の顔は少し不服そうだった。

    「ネックレスの、…指輪?」

    実紅は指輪を手に持って自分の指と指輪を交互にじっと見つめた。

    「いつも実紅には貰ってばかりだし、今日は記念日だから。」

    「それはそうだけど、指に直接はめてくれても良かったんだよ?」

    その言葉に驚きつつも、そういう実紅に心当たりがあった海夢は少しだけ自分に落胆した。

    (やっぱりバレてたのか。)

    「プライベートでもつけられないから。」

    恋人ではあるけど、結婚でき無いのに指輪を記念日に送るなんて重たいかなと遠慮した結果がネックレスだったが、海夢はいかにもな答えを返した。

    「今は誰も見てないよ?…ほら。」

    今日の実紅はどこか強気で、自分の左手を海夢に突き出してきた。
    実紅の強い押しに渋々ネックレスから指輪を取った海夢は、実紅の左手をそっと自分の左手の平で支えた。

    (指にはめる気なんて無かったのに…。)

    緊張しながらも、五つある指の一つに指輪を通した。

    「えへへ、ありがとう。」

    実紅の今日一番の笑顔に、海夢の体がそのままの形で固まる。
    いや、固まったのではなくて…彼の笑顔に捕らえらてしまったのかもしれない。

    「そうだ、海夢のは僕がつけるよ!……いいかな?」

    「…あぁ、うん。」

    少しの間があった後、我に帰った海夢は了承すると共にペアの指輪を実紅に手渡した。
    実紅は少し震えながら海夢の左手をとり、自分の指輪がはめられている所と同じ指に指輪を通した。

    「同じだね。」

    照れながらも嬉しそうに笑う実紅を見て、海夢の胸の奥がきゅぅっと締め付けられた。
    そして徐々に鼓動が増して、顔が熱を帯びているように赤くなっていくのを、目には見えないけれどひしひしと感じた。

    (幸せすぎて…どうしよう。)

    この抱えきれない幸の感情を隠すかのように、海夢は自分の顔を手で隠してそっぽを向いた。

    「海夢…?」

    いつもならば実紅がなっていてもおかしくない状況で、実紅は海夢のいつもとは違う反応に少し驚いていた。

    「見ない…で、今、凄い変な顔してる。」

    「何だか昔に戻ったみたいだね。」

    弱々しい声でそう言ったからか、実紅は海夢の姿をにっこりと愛おしそうに見つめた。
    小さい頃、弱々しいわけでは無かったけれど、恥ずかしい時にはいつも顔を隠していたのかもしれない。

    「…実紅だからだよ。」

    普段、過去の出来事を通して自分を守る様に他者に突っ慳貪になってしまう海夢。
    しかし、相手が家族や実紅なら話は別だった。
    殻に篭り続けていた海夢の感情は、一度溢れてしまうとあの頃に戻ったかの様に幼くなるのかもしれない。

    程なくして気持ちが落ち着いたのか、海夢は目隠しをしていた手を膝に置いて真っ直ぐと実紅を見た。
    まだ少し火照りがあるものの、今は幸せそうな彼をこの目で焼き付けておきたかったのだ。
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