誕生日おめでとう/綾鷺?年明けから久しぶりに帰省し、昼は綾人と一緒にいて彼の受験勉強を見つつ僕の誕生日を二人で祝った。
夜は我が家に帰り、1日遅れの僕の誕生日会をするとのことで、綾人とは僕の家の前で別れた。
僕が玄関のドアを開けると、なんと下3人がお出迎えに来てくれていた。
「ただいま。」
お出迎えがあったことに対しての喜びで自然と顔が緩みながらそう言うと、僕の倍ぐらいの声で「おかえり。」という言葉が帰ってきた。
3人に囲まれながら居間に行くと、葵鸞と雪姫以外の家族が揃っていてみんな口々に「おかえり。」と言ってくれた。
「あ!も〜、葵鸞呼びに行ってたから間に合わなかったじゃん…未鷺おかえり〜おめでと〜!」
「兄さんおかえり。」
葵鸞を呼びに行っていた雪姫は僕を見るなり手を振ってくれ、葵鸞も笑顔で迎えてくれた。
「ありがとう。二人ともただいま、受験勉強してた?」
「うん、でも兄さん帰ってきたし今日はもう終わり。」
「そっか、頑張ってて偉い偉い。」
葵鸞の頭をぽんぽんとすると、照れ隠しからか手を振り払われてしまった。
この行き場の無い手は雪姫がサッと繋いで、僕の好物が並ぶローテーブルまで引っ張られて行った。
「ここ未鷺の場所ね!誕生日席だよ。」
いつもは父さんが座る場所を指定されて少し照れがあったが、みんな僕がこの場所に座るのを見守っていたので渋々座ることにした。
「じゃあ、失礼します…。」
注目を浴びて少し居心地が悪くなりながら、僕が座ったことでみんなも席に座り…懐かしい食卓の風景に自然と笑みが込み上げてくる。
「兄さん顔が緩み過ぎ。」
「未鷺は正月も顔が緩んでたよね。」
僕の斜め前に座る雪姫と葵鸞に指摘されたけれどそんなこと気にならないぐらい、僕は今幸福感に満ちていた。
昼は綾人と過ごせて幸せだったし…夜もこんなに幸せでいいのだろうか?
ー
みんなでご飯やケーキを食べ終えて、プレゼントも貰って、僕は主役でありながら賑やかな場から少し離れたところで一息ついていた。
両親は台所で洗い物をして、弟妹たちは居間で各々のことをしていた時、そっと禅が隣に座ってきた。
「ねぇ、今って誰かと付き合ってたりすんの?」
突然の質問に固まりそうになったけど、禅の至って真剣な顔に僕も真剣に答えるべきだろうかと悩む。
彼ももう中学一年生、少し早いとは思うけれどそう言うのが気になる年頃になってきたのだろうか。
または雪姫が何か言ったのか…のどちらかだろう。
正直な話、禅は僕よりも葵鸞に懐いているし、恋沙汰に関しては僕じゃなくて葵鸞の方がいい気がしてそっちに聞いて欲しいとは思う。
でも、受験のことを考えると僕に聞くのもわかる話で…。
「うん。」
「え、マジ?!」
「マジ。」
「それって、どんな感じなの?」
「ん〜、どんな…かぁ。良くも悪くもあるけど…。」
と言い掛けた所で雛珠と雛羽が「ダメー!」と大きな声で僕達の会話を遮った。
何事か、と二人に「どうしたの?」と聞くと少し怒った口調で、
「未鷺お兄ちゃんは私たちのお兄ちゃんなの!」
と言ってきた。
突然の発言にびっくりするけど、思い返してみれば二人は前に「にぃにと結婚するの!」なんて言ってただろうか。
「ほら二人とも、未鷺兄さんは二人のお兄ちゃんだけど二人のものじゃ無いんだよ?」
水羽が二人と僕の間に入って宥めてくれたけど、二人にはあまり響いてないようだった。
「え、未鷺お兄ちゃん結婚するの…?」
何をどうすればそんな勘違いになるのだろうか、羽空は困り顔でそう聞いてきた。
「マジ?!お嫁さん出来んの?」
羽空の言葉を鵜呑みにした縁はそんなことまで言い出し、その言葉を聞いていた葵鸞は吹き出して笑っていた。
「お嫁さんは出来ません!え、何でこうなったの?」
僕がそう言うとみんな口々に自分の意見を言って何が何やら分からないけど、僕に話を振った禅は申し訳なさそうな顔をしていた。
弁明しようにもみんなが話しているのでどうにも話の埒が開かないのを見兼ね、雪姫が場を静めようと両手を挙げて手を叩きだした。
「はーい、終わり!雛羽と雛珠の勘違い、お兄ちゃんが結婚する訳ないでしょ。それにほら、もう遅いんだから小学生未満は寝なさーい。」
雪姫の声に5人は「はぁ〜い。」と返事をして渋々部屋から出て寝室へと向かった。
「じゃあ私も寝るね、おやすみ〜!」
と、多分下二人を寝かせる為に雪姫が一緒に居間から出て行った。
今ここにいるのは僕と禅と葵鸞の3人だ。
「まぁその…良くも悪くもあって、気持ちがぶつかったりしても、ちゃんと話し合っていればまた相手のことを知られるし…僕だけを見て受け止めて貰える。それが凄く幸せなことだなって僕は思ってるよ。」
葵鸞に聞かれないように、小さく耳打ちをする様に禅に伝えると…僕の気持ちがしっかりと伝わったようで満面の笑みで「ありがとう。」と返してくれた。
そして、禅も寝るようで寝る前の挨拶をして寝室の方へ行ってしまった。
「兄さん、そういうのは禅じゃなくて本人に伝えた方がいいんじゃない?」
葵鸞はそう言いながら呆れ笑いに近い表情を見せた。
「うん、僕もそう思う。」
僕が同意すると葵鸞はまさか同意するとは…という感じにびっくりしていたが、またも呆れたように笑った。
その笑いに釣られ、僕も笑いが込み上げてくる。
もっと自分の気持ちを伝えられたらいいんだけどなぁ…。
「あ、そうだ。兄さん…誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」