プロポーズ「ボクと結婚してください」
そう言ったコノエの手には指輪、片膝をついたポーズで照れくさそうに、少しだけ不安げに眉根を寄せて伝えた相手は兼ねてから交際しているノイマンだった。
「よろしくお願いします」
その一言が出て来ない。
既に大半のクルーたちは結婚し、古参クルーで知れ渡ったカップルではノイマンが最後だ。決して遊ばれたわけではないとわかっていたし、直属上官大佐カップルが結婚するまでは結婚したくない、と独り言のように言ったのはノイマンだった。
とは言え、突然のプロポーズには驚きが隠せない。目を白黒させ、喉元まで来た言葉が音にならずに消える。
少し不安になったコノエがしっかりと顔を見れば、真っ赤になって口元を覆う恋人の目には涙。
改めてゆっくり笑いかけ、返事を待った。
「よろしくお願いします」
か細く揺れる声は常の彼女からは想像出来ないもので、数多の死線をくぐり抜けた人間でもこうなるのかと、もしこれで振られたらどうしようかと不安が胸を覆っていた事実を横においてコノエは愛しさに苦笑する。
「愛しているよ。今日も、明日も、これからも。これまでの君の全てとこれからのすべてをボクに愛し続けさせて欲しい」
指輪をケースから外したコノエに向かい、ノイマンはおずおずと左手を差し出す。
「俺も……愛してます」
震えを我慢して絞り出した強い言葉を聞き終えると、恭しく手を取り薬指に指輪を嵌めた。
感無量で泣きじゃくることがあるとノイマンが身を以て体験したのだと実感するに至りふと疑問が湧いた。
「どうして今日だったんですか?」
コノエはロマンを愛する者だ。
艦長室の私室よりも夜景の見えるレストランやどこかの美術館や博物館、アミューズメントパークなど、何であれ所謂ムードのある所を選びそうなものだ。それこそ、一週間前には二人でデートだと夜景の綺麗なレストランに行っている。しかし、コノエはその日をプロポーズに選ばなかった。
困ったように少し照れくさそうに笑い告げる。
「今日は3月14日だろう?円周率の日だ。いつまでも終わることのない、限りのない日だ。ボクの決意としてはこの日の方が相応しいと思ってね」
思わずノイマンは声を上げて笑った。
「アレクセイさん、本当にロマンチストですね!」