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    purkinje_c

    @purkinje_c

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    purkinje_c

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    ⚗️夢

    ※GPTに書いてもらいました
    ※名前あり固定夢主(pass限絵参照)
    ※カル愛は付き合っている



    【夢主】
    莉架(18) まなみの同級生
    あだ名は苗字から"ヨリ"
    やりたいことがないから良い大学に行きたい
    ※あくまでカル愛前提の話なので夢主の進学先もそれに準じています


    ♢名前を呼んでほしいだけ♢

    高校3年の春、体育の授業。
    バドミントンのペア分けは、自然と“近くにいる人”だった。

    「えっと……よろしくお願いします、野依さん」

    そのとき初めて、愛美が自分の名前を口にした。

    声は小さくて、上ずっていて、でもその目だけはきちんとこちらを見ていた。紫がかった、不思議な目。

    (“野依さん”か……やっぱり、そう呼ぶんだ)

    名前を呼ばれるのは嫌いじゃない。むしろ嬉しい。
    でも“野依さん”じゃなくて、できればみんなと同じように“ヨリ”って呼ばれたかった。
    愛美にも、そう呼ばれたかった。

    彼女は、誰に対しても変わらない。
    仲良しの女子でも、先生でも、男子でも、たぶん親でも。いつも丁寧で、正確で、律儀に「〇〇さん」。
    だから「私のこと、ヨリって呼んでよ」なんて、軽々しく言えなかった。

    憧れてるって、思ってる。
    だけどそれだけじゃないのも、自分でうすうす気づいてる。

    愛美は、好きなことをやっている。
    進路も、自分の意志で決めている。研究がしたくてこの学校を選んで、錯刃を目指してるって。

    (なんでそんなふうに迷いがないんだろう)

    私は、やりたいことなんてない。
    ただ、女子が少なそうって理由でこの学校に来て、かっこよく見えるかも、ってだけで進路を選ぼうとしてる。
    “先延ばし”を“挑戦”のふりして。

    だから、愛美のことが羨ましくて、
    まっすぐすぎて、見ていられなくて、
    だけど目が離せない。

    体育の授業が終わって、タオルで額を拭きながら、
    私はもう一度、隣にいる愛美を見た。

    「……ねえ、“ヨリさん”って、呼んでくれない?」

    ほんの冗談っぽく、笑いながら言ってみた。
    “野依さん”じゃなくていいって伝えたくて。
    “あだ名で呼ばれる自分”になりたくて。

    愛美は一瞬ぽかんとして、それから少しだけ、首を傾げた。

    「えっと……ヨリさん、ですか?」

    「うん。3年目だしさ、気安く呼んでよ」

    その声は、いつも通り敬語で、でもほんのちょっとだけ柔らかかった。

    ×××

    昼休み。教室の隅の、なんとなくいつも決まっている場所。

    机を少し寄せ合って、お弁当を広げて、くだらない話で笑い合って。
    でも今日は、空気にうっすらと緊張が混じっていた。

    「ねえ、莉架は東大でしょ?」

    向かいの子が、さらっと言う。
    悪気なんて、まったくない声色。

    ヨリは、箸の先を止めた。

    「……東京の大学」

    「うそつけ~、オープン模試こっそり受けてるの、知ってるんだからね?」

    「見てたの、怖いんだけど」

    笑いが起きる。ヨリも笑ってみせる。

    「やりたいこと、まだないからね。選択肢は広く持っておきたいってだけ」

    「でもさ、進振りあるのはでかいよね〜。あとから選べるの、強いじゃん」

    「そうそう、理系→文系とかできるし」

    「逆は地獄らしいけどね〜」

    笑いが波紋みたいに広がって、静かに消えていく。

    そのとき、誰かがふと窓のほうを見た。

    「あ、奥田ちゃんだ」

    「あ〜、まなみんってACで錯刃でしょ?」

    「ACってすごいよね。意志固くないと受けらんないっていうし」

    「面接でボロ出たら終わりじゃん。ハリボテとか、すぐ見抜かれるって」

    「あたし絶対ムリ。なんかもう、いろいろ怖いもん」

    廊下をぱたぱたと歩く愛美が、窓の外を見やっている。
    静かな横顔。

    笑顔も、話し声も、なにも届いていない。
    あの人は、ただ、自分の足で立っている。

    (……あたしとは、ちがう)

    ヨリは黙って、ほとんど味のしなくなった卵焼きを口に運んだ。

    あたしは“逃げ場所”として進路を見てる。
    でも、あの人は“目的地”として大学を選んでる。

    あの人みたいになりたいのに、
    あの人に、なれない。

    それでもたぶん――
    呼ばれたい名前で呼ばれるだけで、今日もまた、
    好きになってしまう。


    ×××

    夕方の廊下は、ガラスの向こうに西日が滲んでいて、
    黒板を拭く先生の声も、階段の上り下りも、どこか遠く感じた。

    ヨリは、教室に戻る途中、窓際でノートを読み込んでいる愛美を見つけた。

    ページの端を人差し指で押さえて、
    赤いペンを口元に寄せたまま、眉をほんの少しだけ寄せている。

    (好きだな)

    何度も思って、何度も飲み込んだ言葉だった。

    誰にでも敬語で、表情もこわばっていることの多い愛美が、
    ときどきふっと、名前を呼んでくれるだけで、
    心臓が跳ねる。

    「ヨリさん、それ、体育のレポートですか?」

    あ、また“さん”ってつく。
    だけど、それでいい。
    呼ばれるだけで、十分だって、思ってる。

    「……うん。あとで出す」

    一歩だけ近づいて、でもとなりには並ばない。
    愛美の横顔が、まぶしいから。

    やりたいことを持ってる人。
    選んだ道に、ちゃんと理由を持ってる人。
    誰とも群れないのに、孤独じゃない人。

    まっすぐで、静かで、強い人。

    (あたしとは、ちがう)

    “彼女になれない”って、最初からわかってる。
    並びたくても、届かない。
    愛美は、誰にも似ていない。

    だから。

    「……愛美って、呼んでもいい?」

    唐突にこぼれた声。
    本当はずっと、言いたかった言葉。

    愛美は一瞬だけ目を見開いて、それから少しだけ笑った。

    「はい。……じゃあ、私も、“ヨリさん…”って、呼びつづけても、いいですか?」

    「うん」

    呼び方だけじゃ、距離は縮まらない。
    でも、たったそれだけで好きになってしまう。

    まぶしいままの背中を、今日もまた、追いかけてしまう。

    ×××

    用もなく寄った本屋の帰り道。
    混み合う電車に揺られて、ヨリは窓にもたれてぼんやりしていた。

    車内アナウンスが聞こえた気もするし、しない気もする。
    ぼんやりとした思考の中で、誰かの声が耳に入った。

    「……カルマくん、それ、重くない…ですか?」

    その名前の響きが、自分の知るどんな男子の名前とも違っていて、
    でもその声だけは、絶対に聞き間違えようがなかった。

    ヨリの心臓が一瞬止まり、ゆっくりと振り返る。

    2つ後ろのドアの近く。
    黒髪をおさげにした小柄な女の子。
    そして、その隣には背の高い男の子がいた。
    数駅先の他校の制服を着崩している。

    (……なんで)

    あんなに誰にでも“さん”付けの愛美が、
    その男のことだけは――

    「愛美も、リュック擦れてる。ほら、こっち来て」
    「ありがとう」

    名前で、呼ばれていた。
    敬語を使ってなかった。

    ごく自然に。あたりまえのように。
    たぶん、いつもそう呼び合ってる。

    笑ってる愛美を見たのは、初めてだった。
    学校で見る彼女は、もっと口下手で、喜怒哀楽なんて上手に出せない、みたいだったのに。

    今、隣で並んで笑ってるその男の前では、
    名前で、笑って、心を開いていた。

    「……そっか」

    誰に言うでもなく、小さくつぶやいた。

    あの人が誰にも名前を呼ばないのは、
    きっとそういうルールなんじゃなかった。

    ただ――
    呼びたいと思う人にだけ、名前をあげる人なんだ。

    なら、あたしはその枠には入らない。
    さん付けが取れなくても、十分だったはずなのに。

    こんなことで、泣きそうになるなんて。

    ドアが開く。
    次の駅で、ふたりは降りた。
    肩が触れるような距離で、並んで歩いていった。

    ヨリは立ち尽くしたまま、遠ざかる背中を目で追った。

    (……まぶしい、な)

    どうせ届かない。だから好きになった。
    なのに、どうしてこんなに、痛いんだろう。

    ×××

    模試の昼休み、中央線沿いの予備校。
    周囲のざわめきは、みんな似たような制服、似たような顔。
    でも、ヨリはひとりきりでサンドイッチを食べていた。

    「……この辺でよく会うな、ほんと」

    背後から、男の声。
    誰かと電話しているらしい。

    「いや、こっちは模試中。昼休み」

    低くて落ち着いた声。
    ヨリはなんとなく気になって、ベンチの向こう、ケヤキの木の影を見やる。

    そこにいたのは、あの日の電車で隣にいた、あの男だった。

    高身長で、制服は別の進学校。
    赤髪が光に反射してきらきらと光っている。
    スマホ片手に、ぶっきらぼうな口調だけど、なぜか印象に残っていた。

    「彼女とおんなじ制服の子、会場で見たわ。……ああ、うん。」

    ――彼女。

    その単語が、ヨリの耳に突き刺さる。

    (……“彼女”って、言った)

    “カルマくん”って呼ばれてた、あの人。

    “彼女”なんだ、って。
    あの愛美が、誰かの“彼女”なんだ。

    ヨリの中で、何かがそっと壊れる音がした。

    (ああ、この人……)

    この人は、私が欲しいものを、全部持っている。

    あの目に映る特別な存在。
    “名前”で呼ばれる関係。
    並んで歩ける距離。
    笑わせられる権利。
    “さん”を取ってもらえる世界。

    全部、この人のものだ。

    (“愛美”って、呼んでいいんだ)

    羨ましい。悔しい。苦しい。
    でも、誰にも責められない。
    だって愛美は、私をそんなふうに見たことなんて、最初から一度もない。

    その男が電話を切って、通り過ぎていく。
    軽い足取り。迷いのない背中。

    すれ違いざま、ちらりとヨリの顔を見て、少しだけ首を傾げた。

    (気づかれてない)

    そりゃそうだ。私は彼女じゃない。



    模試の問題文がまったく頭に入ってこなかった午後、
    ヨリはただひとつだけ、心の中で繰り返していた。

    ──あの人は、呼ばれたくて名前を差し出すんじゃない。
    自分から呼びたくなる人にしか、名前をあげないんだ。

    わかってた。でも、もう一度、わかった。

    ×××


    放課後、化学準備室の隅っこ。
    実験の片付けを手伝っていたヨリと愛美は、ガラス器具を拭きながら、ぽつぽつと話していた。

    雑談、というにはぎこちない。
    でも、それがふたりの距離だった。

    静かな時間の中、ヨリはふいに、
    ずっと聞いてみたかったことを口にした。

    「……ねえ、愛美ってさ。彼氏、いるの?」

    手が止まる。
    クロスを握ったまま、愛美はほんの少しだけこちらを見て、目を伏せた。

    「……います。……あ、えっと……その……います、はい……」

    顔が、ふわっと赤くなる。
    手元のビーカーから目を離して、
    でもヨリのほうは見られないまま、
    恥ずかしそうに口角を結ぶ。

    「……そっか」

    それだけだった。

    “そっか”の中には、
    全部、入ってた。

    名前を呼ばれないことも、
    振り向いてもらえないことも、
    自分は特別じゃなかったことも。

    それでもどこかで、ほんの少しだけ期待していた自分がいた。
    気づかれないように近くにいたら、
    いつかその静かな視線が、自分のほうを向くかもしれないって。

    でも。

    こんな顔で、あんなふうに、
    嬉しそうに、恥ずかしそうに、
    “います”なんて言われたら――

    (……邪魔できないよ)

    これが、負けるってことなんだ。

    好きな人が誰かを想ってることに傷ついて、
    でもその人がその誰かを想ってる顔が可愛すぎて、
    ちゃんと幸せそうで。

    だから何も言えなくなる。
    “好き”も、“諦めない”も。

    ――全部、しまうしかない。



    帰り道、電車のホームで風に髪が揺れる愛美の背中を見ながら、
    ヨリはそっと、制服のポケットを握りしめた。

    この手の中には、
    まだ呼んでもらえない名前と、
    呼んでもらいたかった気持ちと、
    終わらせたくなかった片想いが残っている。

    でも、もうそれでいい。


    ×××

    昼休み。
    生協前、どこか浮き足立った新入生たちの空気の中で、
    ヨリはできたばかりの女友達とカフェテリアのテーブルを囲んでいた。

    「ねえ、そういえばさ。文一に変な人いるの知ってる?」

    「変な人?」

    「うん、顔はいいのに、飲み会一切来ないし、
    なんか“彼女が錯刃にいる”って公言してるっていう男」

    「へぇ」

    スプーンを止めるヨリ。
    なぜか、心臓がひとつ跳ねた。

    「しかも、なんか聞いた話だとさ――
    学閥とか先輩からの誘い断りやすくするために、今のうちから“彼女いる”アピールしてるんだって。
    お見合いとか合コンとか、外堀埋めとくために」

    「え、それ……先回りすぎじゃない?」

    「でしょ。でも、そういうとこガチな感じ。
    まじで大事にしてるんだなって思った」

    ヨリは、何も言わなかった。
    だけど、すぐにわかった。

    (……あの人だ)

    電車の中で名前を呼ばれてた男。
    模試の日に、彼女って言った男。
    愛美に気安く呼ばれる唯一の存在。

    「ねえ、どんな子なんだろうね?その彼女」

    友達の何気ない声に、ヨリは少しだけ笑ってみせた。

    「……きっと、すごく、まっすぐな子なんだと思うよ」

    顔が思い浮かんだ。
    静かに笑って、“ヨリさん”と呼んでくれた声。
    薄荷にも似た淡い香り。
    名前を呼ばなかったそのやさしさ。

    (……大事に、されてんじゃん)

    そんなの、当然だ。
    あの子は、誰かにちゃんと愛されるべき人だった。

    それでも――
    今もたまに、呼ばれたかったな、って思う。
    “ヨリ”って、名前だけでいいから。

    でももう、それを願わなくても済むようになった。



    春の陽射しの中、ヨリはアイスコーヒーのストローを口にくわえて、
    誰にも気づかれないように、そっと目を伏せた。

    ×××

    高校の同窓会会場は、久しぶりに会う顔ぶれと笑い声で溢れていた。
    華やかに飾られたテーブルの間を歩きながら、ヨリは少し緊張した面持ちで周囲を見回す。

    「莉架、久しぶり!」

    声をかけてきたのは、高校時代の緩やかな女子グループのひとり。
    みんなそれぞれ違う道を歩みながらも、こうして顔を合わせられるのは嬉しい。

    話に花が咲く中、ふと話題が恋愛に及んだ。

    「ねえ、みんな知ってる?愛美、婚約したんだって」

    「えっ、本当?」

    誰かが口にしたその言葉に、ヨリの胸が一瞬止まった。

    「官僚の彼氏がいるんだって」

    「わあ、さすがだね」

    周囲の話に混じって、ヨリは小さく息をついた。

    誰もがよく知る“あの愛美”が、誰かの“彼女”になり、婚約まで――

    ふと視線を向けると、愛美は隣に並ぶ同期と話していた。
    輝く指には、小さなダイヤモンドの指輪。

    「あ、かわいー指輪」

    ヨリは思わず口に出していた。
    それは自然な感想でありながら、心の奥底では自分に言い聞かせる言葉でもあった。

    「言えた……」

    その瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げてきて、
    ヨリは誰にも気づかれないように目を伏せて、こっそり涙を拭った。
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