遠い朝 遠い記憶を眺めるとき、どうしたって事実とは違って見える。何度も繰り返し思い出していくうちに、自分の望むような色が足されていく。
マトリフは両親のことを覚えていない。そのことを誰かに尋ねることもしなかったし、バルゴートもあえて教えなかった。
マトリフが生まれた土地は痩せて気候が厳しく、他の地より冬が長かった。そのために作物が育たず、農地には適さなかったために牧場が多かった。マトリフの生家もその牧場の一つで、羊と鶏を飼っていた。
バルゴートがその地を訪れたのは古の精霊が住む泉があると聞いたからだった。だがその泉には既に精霊はいなかった。おそらく人間が住み着いたことによってこの地を去ったのだろう。それでも精霊の痕跡を探そうと、バルゴートは暫くその地に留まることにした。
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