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    ka__ra_n

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    ka__ra_n

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    グレゴールのなんてことも無い普通の一日です。
    (すぐに書いたので何も修正していないです。)

    グレゴールのなんて事も無い“普通の”一日今日はなんて事ない1日だった。
     学校へ行き、学友達と共に少し退屈な授業を聞いて昼ごはんを食べて、そして学友にさよならの挨拶をする。
    別に何か面白い事や興味深い事が起こった訳ではない。
    しかし、俺は鼻歌を歌いそうなほど嬉しそうな顔で帰路に着く。
     今日はなんてことない1日であり、俺の誕生日だ。
    いつもは仕事でいない父が帰ってきて、俺の為に何か誕生日のプレゼントをくれるのかもしれない。
    この歳になってもまだプレゼントを貰ったり、自身の誕生日を祝ってもらうのはとても嬉しいのだ。
    家の扉の横に付いている呼び鈴を鳴らす。
     電子的な音が扉越しに聞こえ、小さな足音がこちら側へ向かってくる。
    「お帰りなさいませ。」
     迎えてくれたのは両親ではなく家で雇っているバトラーだった。
    「ただいま。母さんはどこにいるんだ?」
     バトラーはにこりと笑顔を浮かべて長い廊下の先にあるキッチンに目線を向ける。
    「張り切っていらっしゃる様子でして、お嬢様と一緒にキッチンにいらっしゃりますよ。」
     腹を空かせる様な匂いが部屋から漏れ出て、玄関まで漂っている。
     なるほど、と二人の楽しそうな声を聴いて鈍感な俺でもこの状況を理解してキッチンには向かわず帰ったという事を大声で伝えて自分に部屋に戻った。
     学校で使った荷物を鞄の中から取り出して、制服を脱いで部屋で着る服に着替える。
     いつものルーティンをこなしている。
    この行為には何か価値がある訳でもない。
    しかし、この様な何気ない日常を過ごしていると実感する度に何かが満たされる。
     いつ何者でも変える事はできない普通の生活。
    部屋でゆったりできる格好に着替えた後、時計を眺める。
     カチコチカチコチ
     ああ、まだ時間はある。
    本を読み、夕飯までゆっくりと過ごした。

     ガチャリ

    「兄さん!夕食の時間になったよ!」

     妹は急いでこちらの部屋に来たのか、少し髪と息が乱れている。
     本を本棚に戻し、妹に向き直る。
     そんなに焦らなくてもいいのに、そんなことを思いありがとうと言いながら髪の毛を整える為に撫でる。
     コーヒー色の癖っ毛が手の平で少し伸び、そして元に戻る。
     妹は早く自分の作った物を見てもらいたいからか、お構い無しに俺の右腕を掴む。

    「早くいこ!冷めちゃうかも!」
    「わかったわかった。だから腕を引っ張るのをやめよう、な?」

     話を聞いていない様子で、慌ただしく右腕を強く引っ張りながら早く早くと急かす。
     少し疲れながらも母さんが待っているであろう部屋の重い扉を妹と共に開く。
     その時
     ぼーん、と重々しい時計の音が鳴った。
     食事の時間だ。
     
    「早く座りなさい、折角作ったのに冷めたら勿体無い。」

     いつもと同じ席に着く。
     目の前には妹が、そして斜め左に母さんが座っていた。
     斜め右の椅子がある場所を眺める。

    「あれ?父さんは?」

     母さんは真っ直ぐその椅子を見つめて、すぐこちらを向きゆっくり笑みを浮かべた。

    「お父様はまだ仕事があるみたい。先に食べておいて欲しいって言われてるの。」

     なるほど、いつも忙しい父なのだからこれは仕方がない。
     今日ばかり早く帰るなど、無理である事はなんとなく分かっていた、しかしやはり寂しい気持ちにはなる。

    「とりあえず!お父さんもそう言ってるみたいだし、いただきましょ!」

     妹はこの空気を変えたかったのか、明るくそういうと食事に手をつけた。
     卓上には俺の好きな食べ物がずらりと並んでいて、どれも宝物のようにキラキラして見える。

    「そうね、さぁ、あなたもいただきなさい。冷めた物を食べるのは嫌、でしょ?」

     母さんもそう言って食事を開始した。いつも長い前髪を食事につけないよう、人差し指で軽く抑える所作は我が母ながら美しかった。

     それでは自分も食事にしようと皿の食事に向かい直り、フォークとナイフを手に取る。
     二人のカチャカチャと皿とカラトリーが鳴る音を聞きながら、食事を切ろうとした。


     グチャ

    目の前には食事の上に落ちてきた金色のリンゴがあった。

     いきなりの事でよく理解ができなかった。

     しかし、俺の目の前には先ほどと同じ様な美味しい食事はなく、それらは無惨にもこの黄金のリンゴによって潰されて、もうあの様な見た目ではなかった。

     これは母さんが俺を揶揄うためにやった事なのだろうか?
     いや、母さんはその様なイタズラを俺にする様な性格ではない。
     じゃあ、これをやったのは誰になるのかだが、消去法的に妹がやったことになる。
     いや、しかし妹はまだ身長が小さい。それに、イタズラをする事はあっても俺に対するイタズラとしては度が過ぎている。

     じゃあ誰がやったんだ?
     まだ帰ってきていない父さんか?
     しかし、父さんは一週間以上家に帰ってきていない。
     もし、父さんがやったのならもう既にこのリンゴは腐っているはずだ。
     このリンゴは黄金にこんなにも輝いているからそんなに時間が経ってる訳ない。

    「あれ、兄さんまだ食べてないの?私が全部食べちゃうよー!」

     妹は俺を見て驚いた顔をしている。
     あぁ、これは妹のイタズラなのか。
     俺を驚かせたかったのか。
     でもこの様なイタズラは良くないと後で叱らなくちゃな、今はびっくりした振りをしておかなきゃな。

    「ああ!ごめんな。びっくりして食べ始めるの遅くなったよ。」

     そう言い、再度ナイフとフォークを握る。
     でもなぜだろう、握る手はとても強く、何か嫌な汗をかいている。
     早くこれを切って、妹に感想を言わなきゃ。
     その反応が正しいはずだ。

    「まだ切らないのかい?」

     いつの間にか食事を止めていた母さんがじっと俺の目を見て言ってくる。
     あぁ、これは妹と母さんのイタズラだったんだ。
     これなら説明がつく。

     何故か深呼吸をして、ゆっくり煌めくリンゴにナイフを使い切っていく。
     甘い匂いが切った場所から広がり周りを包み込む。
     中からは美味しそうな甘美の汁が流れ落ち、それがナイフに着く。

     そしてリンゴを真っ二つに切ると、そこには蛆虫がいた。
     
     ああ、これではいけない。
     これだと矛盾が生じる。
     じゃあ、きっとこれは父さんがしたイタズラなのだろう。
     それを妹と母さんが一緒になって手伝っていると。
     漸く、納得のいく説明がついた。

     カチカチと時計の鳴る音だけが響き、目の前にいる妹は片方の目でじっと見つめてくる。

    「生き残りたかっただけなんです。」

     リンゴのように赤い髪の毛が、ゆらゆらと揺らめく。

     カチカチと時計の頭を揺らす音が響く。

    「殻はまだ破れそうにないのか。」

     母さんは微笑みながら、こちらを見てくる。

     目を下に向けると、もう既にリンゴは蛆虫によって食い殺されており、真っ赤になっていた。
     皿、いや、机の上はもうすでに色々な虫で埋め尽くされており、それぞれが飯を食っている。

    「残念だ。」

     あの人はこちらに向かってくる。
     カチコチカチコチと忙しなくなる時計の音と、ヒールがなる音だけが聞こえる。

    「あ、そうだ。」

     あの人の右手が俺の右肩を掴む。目の端にはあの忌々しい色がチラリと覗く。

    「15回目の誕生日おめでとう!」

    ぼーん。

     鐘の音が聞こえた。
     

     <……ゴール?……グレゴール!>

     ぼーっとしていたのだろうか、管理人の旦那が心配そうにこちらを覗いている。
     右肩に手が添えられているから、揺さぶられでもしただろうなと呆然とした状態で呑気に考える。
     今はいつだったか。

     <食べてる途中で急に動かなくなったから本当にびっくりしたよ!……調子が悪かったら言って欲しい。>

     時計の音がいつもより少し早く鳴っている。
     本当に心配していたんだなと思い、とても恥ずかしくなった。

    「すまない管理人の旦那。寝不足だったみたいだ。」
     俺の下手くそな笑顔を見たところで信用はしないだろうが、とりあえずは納得したそうだ。
     管理人の旦那の隣で座っているウーティスのかみさんは不注意な事を注意されたがこれを受け流し、食卓を眺める。
     イサンさんが賞味期限が怪しい食べ物を食べようとしているところをファウストさんに止められている。
     ドンキホーテの皿に嫌いな物があったらしく、それをみたロージャが欲しいと言うがシンクレアとムルソーに止められていた。
     イシュメールとヒースクリフはいつも通りの小競り合いをして、煩いとウーティスのかみさんに叱られており、それを管理人の旦那が宥めている所にホンルの何気ない言葉で再度喧嘩が始まる。
     それをニヤニヤと眺めながら良秀は煙草をふかしていた。

     これは数ヶ月前から始まったいつもの光景だ。

    あぁ、よかった。
    あれは“普通の”光景ではない。

     これこそが俺のいつも通りの普通な1日だ。

    俺の目の下には皿に置かれたリンゴが一個だけ置かれている。
     少しじっと見つめた後、リンゴを手に取り、席を立つ。
     ロージャのところに向かい、リンゴを差し出す。

    「俺、リンゴ苦手でさ。頼む、食ってくれないか?」

     そう言ってリンゴを渡した。

     ロージャは嬉しそうにそのリンゴを受け取る。

    「ありがとうグレッグ〜!まだお腹ぺこぺこだったの!」

     そう言ってロージャはリンゴをひと齧りする。

     あの時の様な甘ったるい匂いはしなかった。

     
     
     
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