バタン!と勢いのままに開かれた扉に目線を向ける。
呆けた表情を作り、目を一回二回瞬かせる。
「えーっと…ゼアさん?部屋間違えました?」
いやぁ珍しいなぁ。ゼアさんともあろうお方が!と言葉を続けようとして黙る。彼の肌の血色の良さが異常だ。
ぜいぜいと息を荒げる様子にもしや、風邪でも引いたかと予測を立てて椅子から立ち上がる。
「顔真っ赤ですよ。取り合えず俺のベッドでもよけれ、」
言葉が途切れる。
襟を捕まれたかと思えば、床に押し倒されて息が詰まる。
多分、彼らしくない。だから掴んできた腕を軽く叩く。
「ゼア、どうしたんだ」
とにかく現状確認をしたいのにゼアは先程から一言も喋らず、いよいよもって異常さが際立つ。
もう一度、軽く叩こうか。それともエレキで殴れば流石に…そこまで思考を回していた俺の耳に微かな声が聞こえた。
「…盛られた」
「はい?」
小さな声に聞き返せば、勢いよくこちらを向いたゼアと目があった。緑の瞳が潤んでいるくせに殺気立っていて、ああっと…これは所謂、熱に浮かされている。という言葉を当て嵌めるべきなのだろうか
「媚薬、盛られた」
単語単語を無理矢理絞り出したような声で言われて、けれどだからといって俺を押し倒す理由に…なるのだろうか?
【媚薬を盛られたゼアと恋仲のノフィ】
息を吸って吐く。
震える体は己の制御下からは遠く離れ、意識も飛び飛びで。
けれど快楽だけは鋭く突き刺さる。
「ぜ、あ。あ、あ」
己を貫く男の名前を呼んで、垂れる汗をぬぐおうと手を伸ばせば、緑の瞳と目が合う。
その瞳が捕食者の目をしていたから。
声をあげる。制御不能の体が声が思考が、快楽に荒れ狂う。
目の前に星が舞う。
いつまでたっても慣れない快楽に首を横に振れば、ふっと息を吐くような笑い声が上から落ちてきて、それで無慈悲にも言葉を落とす。
「そのまんま、大人しく快楽に落ちろ。ノーフィール」
甘く煮詰めてドロドロとした執着のような声が耳にからみつく。
【やってるゼアノフィ】
「ゼーアーさーん」
真白い足がパタパタと借部屋のベッドの上で跳ねる。
先程やることやって、お互いに風呂に入って、のんびりだらりとしている中で何故か下だけ何も履いてないノーフィールに溜め息を吐く。
なんのつもりだ、と問いたくても問えない。意識してると知られたくないから。
だというのにアイツは、まるで見せつけるように足をパタパタと動かす。
「ゼアさんってばー」
二度目の呼び掛けにもう一度溜め息を吐く。
「…なんだ」
「さっきから異様にお腹の中に熱が溜まる?ぐるぐる?してて落ち着かないんですよー」
それとぞくぞくします。なんてなんて、事も無げに言う男に唖然とする。
【ナカイキ後の症状に苛まれるノフィと色気のなさに唖然とするゼア】
ノーフィールが虚空を見つめている。
資料の束をめくる度に意識がだんだんとそちらに傾いていき、あきらめた様子で束をベッドの上に放り投げ、足を組み直す。
「なにしてんだ」
「…?なに、とは」
緩慢な動作でこちらを見るノーフィールに舌打ちを吐きつつ、口を開く。
「なんで、そんな何もないとこ見てんだって話」
「ああ」
感情を感じさせない、微動だにしない瞳がひとつ、瞬きをする
まるでなんてことないとでも言うように部屋の隅を指差して言う
「先程から生体反応はあるんだが何もない」
「は」
「アンタの疑問には答えたぞ」
「いやまて、いやまって」
突然のホラー展開に片手で顔を覆い、もう片手でストップをかける
「は…はぁ?!生体反応が?部屋の隅に?!」
「ああ。見たことない現象だが外ではあることなのか?」
「いやないが?!」
言葉の勢いのまま立ち上がるゼアの動きを追うノーフィールは首をかしげる。
「モンスターでもない?」
「…オレが知ってる限りは」
「ふむ…」
手を口許に当て、何事かを考えるノーフィールを横目に気付かされた違和感に悪態を付きながらどうすべきか思考を巡らせるゼアに、まるでトドメと言わんばかりにノーフィールは口を開く。
「因みに、お昼に誰と話してたんです?ゼアさん」
「ひゅっ」
【(モンスター以外からの)ホラー耐性がないゼアと傍観してたノフィ】
「ゼアさーん、ゼアさん?ちょっと返事だけでもしてくれませんかねぇ」
片足をゼアに捕まれ、徐々にあげられていく様子に困ったような小バカにしたような笑みを浮かべてノーフィールは頭を傾ける。
「…お前、案外あがるんだ。足」
「しゃべったと思えば、なんですかそれ?!そりゃあ股関節が固いより柔らかいろうが仕事のレパートリー増えますし」
「ヤる時に思ったんだよ」
淡々と、好奇心の方に意識が向けられているらしいゼアの言葉にノーフィールは黙る
さて、この場合の反応はと彼と恋人になってから増やした言動のレパートリーを引っ張り出してくる
「やだー!ゼアさんのえっち!」
「は、あ?!誰が、なんっ」
想像以上の慌てぶりにもしや、間違ったのだろうかと首を傾げれば、そういやコイツはこんなやつだったなと溜め息を吐かれる。
【ゼアノフィ】