指輪の話 Ⅱ 人間は一生の鼓動の回数が決まっているらしい。
「じゃあ、俺たち2人とも早死しそうですね。」
「ん?」
ソファに座っていた流司くんに話しかける。片耳にイヤホンをしていたらしく、聞こえていなかったようだ。
「人間は一生の鼓動の回数が決まってる〜ってやつです。今テレビでやってました。俺たち普通の人より絶対回数多く使ってるじゃないですか。」
「まぁ、毎日あれだけ動き回ってるからな。」
俳優である俺たちの宿命だろう。一体いつまでこうやって共に生きていけるのだろうか。
「あの、流司くん。」
振り向き、流司くんの左手を取る。その薬指には先日2人で買いにいった指輪が嵌められていた。
「俺、流司くんとずっと一緒にいたいです。」
吸い込まれそうなほど大きな瞳をじっと見たままそう話す。
「この先どの道を選んだとしても、どんなことがあったとしても、この指輪を嵌めた手がシワシワになってもずっと。一緒に。」
繋いだ手にはダイヤの指輪が光っている。2人でお揃いのものを選んだ。法的な繋がりを持たない俺たちにとって指輪は数少ないこの関係を証明するものだ。
「なんか、あれみたいだな、結婚式のやつ。」
「健やかなる時も、病める時もってやつですか?」
「そうそれ。」
昔出席した親戚の結婚式の時に聞いたことがある。
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす ことを誓いますか?ですね。」
この言葉は思い出そうとしなくとも、言葉が出てくるほど脳裏に焼き付いていた。
「よく覚えてんな。練習したのか?」
「ちゃんとプロポーズしたかったので、色々見て考えてるうちに覚えちゃいました。」
本当はもっとかっこよく言いたかったが、流司くんには叶わない。何もかも見透かされてばかりだ。
「誓って、くれますか。」
心臓が高鳴り、頬が火照る。
「……誓うよ。大悟は?」
「誓います。ずっと一緒に、隣にいさせてください。」
手を握り、顔を上げると流司くんは照れくさそうに笑う。
「末永くよろしくお願いします。流司くん。」
「よろしくな、大悟。」