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    hisuisuire0118

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    hisuisuire0118

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    遊郭パロディ

    椿の咲く頃に 序「ん?客か?」
    格子越しに、照明に照らされ、きらきらと輝く金色の髪。華やかな模様が描かれた赤の着物。
    こちらに向けられた青みを帯びた灰色の瞳は長く伸ばされた前髪の隙間からでも分かるほど力強い目をしていた。
    座ったまま煙管を吸う彼は人を寄せ付けない美しさをしている。
    「男のオレを買いに来るなんて物好きなやつだな。」と彼は煙を吐きながら笑った。
    「買う?貴方を?」
    聞きなれない文章に思わずオウム返しのように聞き返してしまう。
    「わざわざここに来たんだ。そういう目的以外に何がある。」
    「あ、えっと、俺知り合いに連れてこられて……ここはどういうところなんですか。」
    しどろもどろになりながらも答えると、彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。その顔つきは先程よりも少しだけ幼く見えて可愛らしい。
    彼は溜息をつき、「ほんとに何も知らずに来たんだな。」と呆れ返った。
    「……ここは吉原。江戸一の遊廓の街。」
    遊廓、その言葉は聞いたことがあった。
    簡単に言えば男達が遊女である女性を買える店。すると、この人はなんだ。途中で男性を数人見たりはしたものの、その男達とは明らかに様子が違う。
    「貴方は?」
    「オレか?オレは流司。」
    彼は煙管を置き、こちらに目線を向ける。刺すような目線に思わず身じろぎしてしまった。
    「吉原唯一の、男の遊女だ。」
    男の、遊女。つまりこの人も客を取るのか。ということは俺はこの人を買いに来た客と間違われているのか?まずいことになる予感がする。
    「俺、本当に知り合いに連れられてきただけで!遊ぶつもりなんてなくて!あ、いや、貴方のこと、すごくかっこいいとは思いますけど!」
    まくし立てるように必死に断る。下手なことをしでかす訳には行かない。家の評判に関わる。
    「要するに男娼ってやつなんだが、不思議なもんで案外需要があってな。間違えて入ってきたやつから金ぶんどったりするほど困ってねぇから安心しろ。」
    その言葉に胸を撫で下ろす。それにしてもどこを切り取っても絵になる人だ。時代が違えばきっともっと華やかな職についていただろう。
    すると、奥の長屋から「流司。お客様がお呼びだよ。」と女将らしき年増の女性が声をかけた。彼は振り向き、「分かった。今行く。」と答えると再びこちらに目線を戻した。
    「仕事の時間だ。ほら、帰った帰った。もう迷い込むなよ。」
    彼は立ち上がり、しっしっと追い払うような仕草をする。
    大人しく従い、店を出た。彼の表情が一瞬悲しげに見えた気がした。
    長屋を後にし、外へ出ようと門へ向かって歩く。
    ここに連れてきた張本人はどこへ行ったのやら。夜のこの街は随分と騒がしく人通りも多い。この人混みの中では見つけられそうになかった。馴染みの商人に連れてこられたとはいえ、こういった遊び方はあまり好きではない。どうせ、遊び呆けて迎えになど来ない。帰っても問題ないだろう。
    それにしても、随分と美しい人だった。仕事の時間、ということはそういうことなのだろうが、あんな人でも乱れたりするのだろうか。
    話したのはせいぜい小半刻程度だというのに忘れられる気がしなかった。

    「あ!」
    一週間後の昼時。新規の取引先として妓楼に行く機会を得た。
    そしてそこにあの日見た彼を見つけたのだ。通りがかりらしき彼は苦虫を噛み潰したような顔をする。
    あの日迷い込んだのはこの妓楼だったのか。吉原には無数の妓楼があることもあり、気が付かなかった。
    「新しい出入りの業者ってお前のとこかよ……。」
    あの日とはうってかわり藤色の着流し姿で前髪を上げている彼はこの街の外にいる男性たちと変わらない。
    「この方と知り合いなのか。」
    「この前、迷い込んだ時に会いまして。少し話す機会があったんです。」
    共に来ていた父上に尋ねられ、そう答える。
    「丁度いい。若いもの同士話もあうだろう。話はこちらで済ませておくから、外の茶屋にでも行ってこい。」
    恐らくだが父上は彼を楼主の息子か何かと勘違いしている。商魂逞しい父上のことだ。息子を取り込めば有利に取引できると考えたのだろう。
    正直かなり間違っているが、また会えたのだ。話してみたくはある。
    「で、ですが彼が迷惑じゃ……。」
    しかし、体裁上一度は遠慮の言葉を並べた。
    「別に迷惑ではねぇけど。」
    彼は後頭部を掻きながらそう答えてくれた。心の中では歓喜しながらも顔に出ないよう必死に耐える。
    「おお、なら行ってきなさい。大悟、失礼のないようにな。」
    「行って参ります。」

    「すみません、連れ出してしまって。父が勘違いしてるみたいで。」
    長屋の外に出てすぐ、そう謝った。「まぁ、花魁には見えねぇだろうし気にしてねぇよ。」と笑った。笑うと随分幼く見える。
    「お前、加藤家の坊ちゃんだったんだな。俺でも知ってる。」
    彼は俺の羽織の紋を見ながらそう話す。うちの家の噂は随分と広がっているらしい、父上がそのことを知ったら得意気な顔をするだろう。
    妓楼を出てすぐの通りを歩いているものの、昼時だということもあり、どこも人が多い。吉原は夜しか活気がないものかと思っていたが、昼間でも賑やかに感じる。
    街の賑やかさと相反するかのように俺たちの間には沈黙が続いていた。
    「なぁ、」
    「は、はい!」
    沈黙を破るような彼の声に驚き、つい声が大きくなってしまう。人混みの中だというとが幸いだった。
    「何食いたい?昼時だから屋台も沢山出てっけど。」
    「りゅ、流司くんのおすすめで!俺この辺詳しくなくて。」
    見慣れない店ばかりで目移りしてしまう。ここは彼に聞くのが得策だろう。
    彼は「あ、食えないもんとかあるか?」と尋ねてくる。特にない事を伝えると「分かった。」と返してくれた。
    数分歩き、着いたのは蕎麦屋だった。少しだけどこに連れていかれるのかと不安だった分大衆的な雰囲気に安心する。
    「普段1人で行く店だから大したとこじゃねぇけど。ここの天ぷら美味いんだよ。」
    店の中には多くの客がいたものの、奥の二人がけの席が空いていたようでそこに案内された。すぐに注文を聞かれ、天ぷら蕎麦を頼んだ彼の声に「俺も同じものを。」と続ける。
    「よくここ来るんですか?」
    「うん。昼見世の前によく来る。」
    聞きなれない言葉に「昼見世ってなんですか?」と尋ねた。
    「お前が前来た時が夜見世。昼見世は九ツから七ツまでだからその前とか後とかに行くことが多い。……お前、ほんとに妓楼に来ることねぇんだな。」
    彼は頬杖をつきながらそう話す。
    「父があまり興味を示さないんで、俺もあまり来ることがなくて。だからここに来たのこの前が初めてです。流司くんはいつからあの店にいるんですか?」
    しまった、と思った時にはもう口に出してしまっていた。遊女は親に売られたという理由が多いのは俺でも知っている。あまり聞かれたくない話かもしれない。
    「八ツからだ。もう二十年近い。」
    しかし、彼は表情も変えずに答えた。それどころか「他にも聞きたいことあったら答えるぜ。」と言う。
    「あの、ここにいる理由とか……。き、聞かれたくなかったら大丈夫です!」
    言葉に詰まりながらもそう聞くと「男の花魁なんて珍しいからな。みんな不思議がるしよく聞かれんだよ。だから今更聞かれたとて何も思わねぇ。」と笑った。
    「親に売られたんだ。貧しい村の家だったらしくてな。もう顔も覚えちゃいねぇし恨みすらしてねぇよ。赤の他人同然だ。」
    その言葉を聞き、「花魁をやっているのもそれに関係があるんですか。」と続けて尋ねる。
    「俺の場合は女ってことにされて売られたもんだからうちの楼主様が花魁にするんだって聞かなかったらしくてな。仕方なくこうなった。」
    彼は重さの欠片もない様子で話すが、簡単に受け止められるような話ではない。そして、「いくら顔が可愛かったとはいえよくあの楼主を騙せたもんだよな。」と呆れ半分のような様子で言う。
    「ありがとうございます。話してくれて。」としか返すことが出来ずにいると、注文していた蕎麦が運ばれてきた。
    「「いただきます。」」
    内心助かった、と思いつつ箸を割り、手を合わせ、蕎麦をすする。揚げたての天ぷらは軽い食感で彼の言う通りとても美味しい。
    「美味そうに食うな。」
    「ほおですか?」
    蕎麦を咀嚼しながら彼の言葉に答えた。
    彼は頬を緩ませ随分と優しい目でこちらを見ている。その大きな目にどこか色気を感じてしまい、蕎麦を食べるふりをして目を逸らした。
    箸を進めていると、いつのまにか流司くんは周りの男性たちに話しかけられていた。常連らしい客の楽しそうに談笑している。彼のお客だろうか。
    数分もしないうちに男達は去っていった。「知り合いですか?」と尋ねると「ああ、うちの常連なんだよ。」と言う。
    「オレの客じゃなくて、姉さん達の客だけどな。たまに話しかけてくんだよ。」
    そうなのか、勘違いをしてしまった。
    それ以上の感情など無いはずなのに何故だか少し安心してしまった。
    「どうかしたか?」と不思議そうな顔をする彼の目を見ていられず、「なんでもないです!」と誤魔化した。

    「美味かったな。」
    「はい!美味しかったです。」
    蕎麦屋を出て妓楼までの道を2人並んで歩く。先程よりは人が少なくなった気がする。
    彼はこの後昼見世があるらしく、帰らなければならない。父の商談もそろそろ終わる頃であろう。
    彼との時間がもうすぐ終わってしまう。
    「流司くん。」と呼びかけた声に反応し、「ん?」と彼はこちらを向く。
    「また、一緒に出かけてくれますか?」
    今聞かなければ彼との関係がここで終わってしまうような気がして、言わずにはいられなかった。
    この人をもっと知りたい。彼ともっと一緒にいてみたい。
    「ああ、また飯行こうぜ。」
    彼は笑顔でそう答えてくれた。「はい!」と返すといつの間にか妓楼の入口に着いてしまっていた。
    奥から父が「大悟。戻ったか。」と出てくる。父は上機嫌だ。どうやら上手く商談がまとまったらしい。
    「では、今後ともどうぞご贔屓に。よろしくお願いします。」
    そう言いながら頭を下げる父に続き俺も慌てて頭を下げる。隣にいた流司くんは呼ばれたらしく「またな。」と行ってしまった。
    今度会えるのはいつになるだろう、と考えていると父が振り向いた。
    「大悟、この妓楼はお前に任せる。」
    「…………え?」
    予想外の言葉に反応が遅れる。
    「随分と仲もいいみたいだしな。規模も大きすぎないから丁度いいだろう。」
    「そ、それは俺がこの妓楼の注文全て担当するってことですか。」
    腕を組みながら歩く父に慌てて着いていく。
    「ああ。女将や楼主様からの注文が主だが、女郎達からの注文を受けてもいい。どれだけ注文が入るかはお前の腕の見せ所だ。」
    今までは父の仕事について行くばかりだった。だが、今回は父の言葉からして、正真正銘俺の1人での初仕事になる。
    何よりこの妓楼に来る理由ができた。また、彼と会うことが出来る。
    「頼んだぞ、大悟。」
    「……はい!」
    責任の重みをひしひしと感じながらも期待と希望に俺は満ち溢れていた。
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