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    hisuisuire0118

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    hisuisuire0118

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    麻真が刺される話
    CP未満の何か

    襲撃「……麻真?」
    稽古終わり、劇場の廊下を歩いていると遠くに歩いている麻真の姿を見つけた。麻真は先に稽古が終わったこともあり、既に帰ったはずだ。何か忘れ物でもしたのだろうか。
    特に声をかけることも無く、廊下を歩いていく。その時、ある違和感に気がついた。麻真の足取りがいつもより遅い上、千鳥足で今にも倒れそうな歩き方だ。もう少し歩けば追いつくだろう。
    ふと地面に目を向けると、麻真が歩いた道に赤い斑点のような模様が着いていた。
    「何これ、血のり……?」
    嫌な予感がし、走って麻真に追いつく。後ろから「おい、麻真。」と肩を叩くとその勢いのまま、前に麻真が倒れていった。
    咄嗟に腕を掴み、麻真の体を抱きとめる。なんとか地面と衝突することは防がれた。間一髪のところだった。
    「あ、くた、がわ……?」
    麻真はようやく俺の存在に気がついたらしく、抱え込まれたまま不思議そうにこちらを見る。やはり様子がおかしい。頬は火照り、息遣いも荒い。その上、普段の麻真ならありえないほど大人しい。
    「座れるか?もう立ってられないだろ。」
    半場無理やり膝を折らせ、座らせる。壁にもたれかかって座っているのもやっとといった状態だ。稽古中は普通だったように見えた。一体この数分で何が起きた。
    「麻真、何があった。」
    「……れた。」
    「え?」
    「さ、さ、れた。」
    「は」
    よく見ると、麻真はずっと左腹部の辺りを抑えたままだ。手を退かせ、着ていたパーカーを捲ると今も血が溢れだしている痛々しい傷口が現れた。見慣れたすり傷などでは無い。明らかに何かを刺された傷だ。
    咄嗟に傷口を左手で抑えたものの、全く血が止まる気配は無い。冷たい汗が背中を伝う。呆然としている場合では無いことだけはすぐに理解できた。頭をフル稼働させ、状況を整理する。
    「今救急車呼ぶから。」とスマホを取り出そうとしたものの、楽屋にスマホを置いてきてしまったことに気がついた。
    「誰か!いる救急車呼んで!」
    離れる訳にもいかず、その場で叫ぶ。声に気がついたらしき花沢が走ってくる姿が見えた。
    「花沢!救急車!麻真が刺された!」
    声を振り絞り、指示を出す。そんなことをしている間にも抑えた傷口から血が溢れだしている感覚は止まない。
    「っう"ぅ……いた、い……っ、さわ、んな……!」
    麻真は息も絶え絶えになりながら、必死に俺の腕を掴んでくる。かなり消耗しているらしく、掴んでいる腕にもまともな力が入っていない。
    「これ以上血流したら死にかねないんだから我慢して。」
    ポケットにハンカチが入っていたことを思い出し傷口にあてて上から抑える。手でおさえるよりは血を吸うはずだ。
    「ぐぅ"……っあ"……!」
    麻真は苦悶の表情を浮かべる。まだ意識ははっきりしているようだが、どのくらい持つだろう。痛みを逃がそうとしているのか麻真は俺のTシャツを掴んだまま離さない。
    「麻真、刺されたやつに心あたりは?」
    気絶すれば危ないことぐらいは分かる。喋らせて少しでも意識を保たせなければ。
    「わか、んな、い……。けど、」
    「けど?」
    「オーディ、ション、会場でみた、きが、する……。前の、ドラマの。」
    先日から麻真が撮影が始まったと言っていたドラマ。確かあれはオーディション選抜だった。そうなると、逆恨みか個人的な怨恨かのどちらかだろう。
    仕事での嫉妬などよくある話だが、行動にまで移してくる人間は珍しい。
    「どこで刺された?劇場出てすぐか?」
    「いつもの、バスの、とこ。」
    劇場最寄りの駅に向かう際ほぼ必ず俺たちが通る場所だ。あの場所はかなり人通りが少ない。
    「見つけて貰えないと思ってこっちまで歩いてきたの。」
    「うん。誰も、いなかっ、たから。」
    麻真が刺された場所から劇場までは5分もかからないとはいえ刺された状態で歩くにはかなり辛いだろう。よく俺が見つけるまで倒れなかったものだ。
    「頑張ったな。」
    「やめてよ、芥川に優し、くされるとか、寒気する……。」
    せっかく褒めたというのに可愛くないやつだ。今に始まったことでは無いが。
    「あく、たがわ、さむ、い……。くー、らーついてる……?」
    浅い呼吸をしながら麻真は握ったままのTシャツの引っ張る。
    劇場内は稽古が終わったということもあってクーラーが消されており蒸し暑くなっている。寒いなどありえない。
    「は?クーラーなんてついてないけど。」
    麻真にそう言ってから気がついた。麻真は血を流しすぎたのだ。傷口を抑えているとはいえ出血が完全に止まっている訳では無い。出血の増加により体温が下がっている。すぐに自分の着ていたパーカーを脱ぎ、麻真の肩にかけてやる。なにもしないよりはマシだろう。
    「汗臭いとか文句言うなよ。稽古後なんだから。」
    「あく、たがわの、においする。」
    麻真はへら、と笑う。相変わらず変なやつだ。役が入らないと普段は滅多に笑わない癖に死にかけてる時に笑うだなんて。
    「死にかけてる自覚ある?」と呆れたように額を小突くと「おれ、けがにんなんだけど!」と文句を言う。文句を言えるぐらい元気があるなら安心だ。
    「芥川さん!麻真さん!救急車来ました!」
    するとその時、花沢が救急隊を背に走ってきた。ようやく到着したらしい。
    麻真は担架に乗せられ次々と器具をつけられていく。傷口をら押さえつけていたハンカチは柄も分からないほど血みどろになっていた。
    「あく、たが、わ。ひと、りはやだ。ついて、きて。」
    麻真は再び俺のTシャツを引っ張り、途切れ途切れになりながらもそう言った。
    病院嫌いもここまでくると感心する。「ちゃんと一緒に乗るから。心配するな。」と答え、手を離させた。
    担架が持ち上げられ、劇場の出口へと救急隊が向かう。俺はその後を走ってついて行った。

    早期の通報が幸をなしたらしく、麻真は幸いにも一命を取り留めた。監視カメラから犯人も割り出され逮捕されたらしい。理由は案の定オーディションの逆恨みだった。恐ろしいことをしてくるやつもいるものだ。
    「なー、芥川、はやく戻りたいんだけど。」
    「しばらく車椅子のやつが何言ってんの。昨日傷口痛いって騒ぎっぱなしだった癖に。」
    怪我を負ったところで生意気さはいつも通り。いや、わがままはいつもの数倍だ。減らず口も少しはマシになれば良かったのに。
    「もう平気だって。」
    「今は鎮痛剤効いてるからだろ。大人しくしてろ。」
    「むーりー。」
    劇団のメンバーがそれぞれ交代で麻真の見舞いと世話に来ている。仕事の都合上、時間はまちまちだが、皆頻繁に来ていた。
    「今は養生して、怪我治して早く板の上に戻ってこい。」
    「芥川もはやく俺に戻ってきてほしいんじゃん。」
    にまにまと笑う麻真を「うるさい。」とあしらい、読みかけの本を開く。病室には暖かな日差しが差し込んでいた。
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