「ゆるして」
椅子に縛り付けられた女が発する、もう何度目かも分からない言葉にミノルは細く息を吐き出した。肉体的な疲労と、何も理解しようとしない女の知能に辟易する。
「だったら言ってくれよ、ケンジはどこにいる?」
「……」
途端に口を紡ぐ女の顎を、ミノルの拳が下から突き上げる。気持のいい入り方をした拳は下顎を砕き仰け反った女は白眼を剝き痙攣を繰り返す。質問、沈黙、暴力。焼き増しのように繰り返されるやり取りに飽き飽きすると共に、無抵抗の女を痛めつけるのは拳の痛み以上にミノルの心を削り取った。
「……なぁ、頼むから言ってくれよ」
「は……う゛……ゆ、うじえ……ごえん……」
「困るんだよ、馬鹿の一つ覚えみたいにそう言われたって」
閉じることの出来なくなった顎は既に意味をなさず、口から血と舌と泡を垂れ流しながら懇願する女に眉間を揉む。
(許して欲しいのはこっちだろ……)
顔にかかる髪を優しく避けながら、女の顔を覗き込んだ。焦点の合わないそれと視線を交わすことが叶わず、それでもミノルは言い聞かせるように問う。
「お前が何か吐かないと、俺達は一歩も前に前に進めないんだよ、分かるだろ?」
「ごえ……ん……」
「……」
尚変わらない女の態度に、沸点が訪れた。
女らしい、華奢な、ぐるりと一周するのに片手で事足りてしまう首を鷲掴む。腕に浮かぶ太い血管が、どれ程の力が込められているかを物語る。縛り付けられられた手足が大きく暴れるが意味をなさない。
「いい加減にしてくれ、お前の、しょうもない謝罪に付き合うのも、もう飽き飽きなんだよ」
言葉が区切られる度に女の頭が大きく揺さぶられる。とうとう気を失い脱力した上半身を支えることなく床に転がしながら、ミノルは誰に聞かせるまでもなく呟いた。
「時間切れだ」