教え子の誕生日.

『 ( ……！！！ もうちょいやん！？！？！ ) 』

6月末の放課後、 普通科の職員室で 自分のクラスの生徒である心操人使に関する書類を整理していた中村は、心操の誕生日が7/1である事を知った。


中村は仕事が終わり 相澤と同棲しているアパートへ帰り、夕飯を食べながらその事を相澤に言うと「特別扱いするなよ」と言われてしまった。
「ヒーロー科へ転入する為に頑張ってんだからちょっとぐらい…」と 眉尻を下げ しゅんとしてしまう。相澤は その顔にめっぽう弱い。

「…その、なんだ、…スポーツ飲料ぐらいなら、良いんじゃないか…？」
言葉を詰まらせつつ頭を掻きながら答える。
「！！！なるほど！ 特訓中に水分補給出来るし、貰っても困らない！！わかった！！」
相澤からのアドバイスに 納得し、ぱぁっと表情が明るくなった中村だった。


ーーー


7/1 放課後 ──

校内裏庭のとある場所にて 心操は相澤の元で 特訓中。

「…よし、休憩にするか」
「ハァッ、っ、はい…っ」

相澤の一言で心操は少し離れた所に置いていた鞄の中から ペットボトルのスポーツ飲料を取り出し 1口、また1口と飲み始める。相澤は木にもたれかかり スマホを取り出し どこかへ電話をかけていた。

「…もしもし。…あぁ、今 休憩にした。…手短にな」

心操は相澤の方を見て 首を傾げながらも 地べたへ座り込んだ。日陰で休憩しながらも 教わった事を思い出しつつ捕縛布の使い方を再確認をしていた。すると、

「しーんっそーーーーー！！！」

遠くの方から 心操の名前を呼びながら早足で駆け寄ってくる中村の姿が。

「っ中村先生！？！？ 」
胡座をかいて座っていた心操は 担任の姿を見た途端 その場に立ち上がった。

中村は心操の前に立つと
「心操！おつかれ！今日も頑張ってんなぁ！！あ、心操今日誕生日やろ？この前 書類見て知ったんやけどな！いつも頑張ってるから 何かしてあげたいな〜って思ったんやけど 消太が特別扱いすんなって怒ってきたから 頑張ってるヤツに何かしたらアカンのかって拗ねたら スポーツ飲料渡すぐらいならいいんじゃないか？って言われたから 確かにって思って お前が貰っても困らないものを考えた結果、スポーツ飲料とちょっとしたお菓子にしたんだ！！電話で手短にって言われたから これを渡しに来ただけなんよ！はいっ、これ！あ、クラスの皆には内緒な？！わかった！？…っよし、無事渡せたし 時間は有限だし 邪魔したくないから俺は職員室戻るな！…一生懸命頑張るのも良いけど あまり無理すんなよ？じゃあな！がんばれよ〜！！！！消太も 心操の事頼んだでぇ！！！！」

と 言い 心操の頭をポンポンと撫でると 手を振りながら来た道を戻っていった。この間 約1分。

「………？？？」
紙袋を握らされた心操は 中村のマシンガントークと勢いに驚き、固まってしまっていた。

「ハァ…。手短に、とは言ったが そこまでとは…」
相澤は中村のあまりの素早さに 呆れながらも あいつらしいな と、くくっと口に手を当て笑っていた。

「心操、ありがたく貰っておけ。俺がああやって言わなければあいつは もっと高価なものを渡そうと考えていたと思うからな。それと、気を使わせてしまったとかも考えるな」
「は、はい…」
「……よし、5分後に再開するぞ」

相澤からの言葉に心操は 戸惑いながらも頷き、紙袋を広げ中を見ると 500mlペットボトルのスポーツ飲料2本と透明な袋に包まれ紫色のリボンでラッピングされた洋菓子が入っていた。

担任から 誕生日を祝われるなんて思ってもいなかった心操は 嬉しそうに紙袋をぎゅっと抱きしめた。その様子を見た相澤も 口元を少し緩ませた。



── 数年後、20歳になった心操が 元担任と元担任兼師匠に居酒屋で誕生日を祝われる事になるとは 想像もしていなかった
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