3/14少し寒さが残る夜の神室町。待ち合わせ場所である劇場前広場に少し早くついた桐生は、鉄製アーチに寄りかかった。大きなモニターからは恋愛映画の予告が流れ、どこかからチョコレートの甘い匂いが漂ってくる。道行く人々もどこか浮き足立っており、距離の近い男女も目に見えて多い。
ぼんやり大通りの方を眺めていると、腕を組んだ男女カップルの金髪の男性と1人で歩いていた女性がぶつかる。女性の方はバランスを崩して尻もちをついてしまった。
「きゃっ」
「どこみてんだ!気をつけろ」
男は謝りもせず、よろけた彼女にそう吐き捨てる。足を止めることもなく、そのまま人ごみの中に消えていく。残された女性は怪我はなさそうだが、ぶつかった衝撃で持っていた紙袋から手を離してしまっていたらしく、雨水のたまった小さな窪みの中に着地していた。桐生は近づいてそれを拾い上げ、地面に座り込んでいる彼女に手を差し伸べた。
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