さくさくと、誰の足跡もない雪景色を踏み荒らす。吐く息は白く、そして上がっている。防寒着はないけれど、自分に守護の魔法をかけているから凍えるほどの寒さは感じない。かつての記憶から引き出して、何とか使えるようになった唯一の魔法だった。
随分遠くまできたような気がする。でも、徒歩だからそんなに遠くまで来てないような気もする。ぼんやりと歩いてきたからわからなかった。思考の代わりに、父に言われた最後の言葉が脳裏に焼きついている。
『俺の妻を殺した魔女め!!』
血走った目に狂気の形相を浮かべる父の元には、もう居られないと思った。
私が生まれたのは魔法使いへの偏見の強い村だった。母はそれでも愛してくれたけれど、父は母がそう言うのなら仕方がないといった態度だった。北の魔法使いにしては魔力がとても弱く人間の振りをできていたので、しばらく……身長が伸び切るまでは平穏に暮らせていた。
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