『侍女の独白』壇上を駆けるふたつの人影。
「姫様、お待ちください!」
「あははっ! 私は誰にも止められないの!」
お転婆なお姫様とそれに振り回される騎士。
ほとんどの観衆が陽くん演じる騎士に憧憬の眼差しを向けているけれど、お姫様の側にも幾人かの視線が送られている。
スポットライトに照らされた彼女たち。
それを私は、舞台の隅からただ眺めている。
幕間。
「侍女A、言っておくけれどあれは私の騎士よ」
「……なにそれ、牽制のつもり?」
「いいえ、ただの忠告です。……ふふっ」
台本にないセリフを投げかけてきたお姫様に呆れ声で応じると、つんと澄ましてみせた後おどけたように笑う。
お姫様。
あたたかで優しい陽が降り注ぐそんな役に、この私がなり代われたら、なんて。
323