蝉が忙しなく歌い続ける暑苦しい夏の真っ昼間に、迷いなく弾丸をぶっ放す1人の男。業界の大問題児として誰もが知るこの男は常々舐め腐った雰囲気を置き去りに、無防備にも目の前に晒し出された的を確実に捉え、一瞬たりとも離さない。
職業柄肩身離さず所持するソレは無事機能することなく、放たれた弾丸は獲物とは全く別の方向へ一発。この場での彼に絶対的な存在感を与える為だけに消費され、捉える隙も与えず一瞬として消えていく。
何年も銃を駆使して業界内を隅から隅まで掻き回し、乱暴に且つ確実に上り詰めてきた幹部の一人である彼が、この期に及んで的を狙い損ねるという失態を犯す筈があるか、と。消えた弾丸の行先を必死に眼球で追い回す品性のカケラも(権力も)ない下っ端共を皮切りに、その場の人間の視線が煙を蒸す銃の持ち主へと吸い寄せられる。が、その中心でたった一人、この状況を心底楽しみ、心待ちにしていた男がいた。
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