あらしのあと七月十九日、朝八時。朝のキラキラと透き通った海を横目に、もう何度も通った迷いようのない道を走る。数ヶ月ぶりに近くで見た、私の元バイト先。なんとなく、記憶にあるものより少しだけ小さく見えるような気がした。
「…遅い」
いつもの顰めっ面でドアの前に立つ瑛くんになんだか安心して、大きく息を吐く。肩にかけられた大きな黒いボストンバッグは、私の記憶の中では初めて見るものだった。
「ごめん、だって早起きするの久しぶりで」
「弛んでるぞ、少しは俺を見習え」
「瑛くんはもうちょっと寝た方が良いと思うけど」
「ウルサイ。ほら早く、鍵」
ここまで来る道中ずっと握りしめていた鍵を、差し出された手のひらへ渡す。少し緊張した面持ちで鍵を回す横顔に、小さく心臓が跳ねた。
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