無題 扉を開けて飛び込んだ光景にまず、これは夢かと思った。自室の中央にはローテーブルに一人がけのソファが三つ。その内の赤いソファは彼の定位置で、部屋にいる間は大体そこに座って本を読むか、爪を塗るかしている。
そして今日も彼はそこに座っていたのだが、茶色いカバーの掛かった読みかけの本を片手に膝を抱えて蹲り、腕に頭を預けて目を閉じていた。どうやら、眠っているみたいだった。
「潜?」
寝息の一つも聞こえず、一瞬、死んでいるんじゃないかと思った。静かに眠る潜に、來人はそうっと近づく。試しに掌を口元へと寄せてみると、生ぬるい吐息が肌を撫でた。実は起きていてこちらをからかっている、という可能性も考えていたが、どうやら杞憂だったらしい。
7491