『勇利くんの熱愛報道』その後「ぎゃぁあああああああああああ」
ロシアはサンクトペテルブルク。その日とあるアパートの一室で絶叫が響き割ったのは、夜も十時を回ったころであった。
「ゆうり~、どうして逃げる? ほら、こわくないよ、こっちにおいで。ねっ、こ・ぶ・た・ちゃん!」
絨毯敷きの広く豪奢な寝室の一角。両腕を広げ、猫なで声で近付いてくるのは、この世のものとは思えないほど美しい人。青い宝石みたいな目に、銀糸のようなサラサラの髪の毛。たとえるならロシアの一等星のように輝かしくきらめいている彼は、僕が子どものころから憧れ続け、今は僕のコーチとなったヴィクトル・ニキフォロフだ。
世界で一番尊敬し、愛するわが師を前にして、しかしなぜなのか、今の僕は食べられる直前の子豚みたいに部屋の片隅でぶるぶると震えている。
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