夜籠りに詠う あの日。
偽りの盈月が成ろうとした、あの夜。
江戸の夜空を埋め尽くした荘厳なる黄金の天輪に、ただ——目を奪われた。
人を守ることができる——。
瞬く夜空を見上げ、目を見張るばかりだった俺に、
あの人は迷いなくそんな言葉を口にした。
全てを見透かすかのような、厳かな夜凪の瞳に射すくめられた、あの時。
はたしてこの胸に灯ったものは、何であったのか。
答えは知れず。
けれども、覚えている。
今でも、確かに。
何一つ、取り零すことなく覚えている。
あの——胸の高鳴りを。
幾度の試練を、数多の地獄を乗り越えてもなお——燻り続ける、その熱を。
ああ、そうだ。
今も。
今、この時すらも。
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