893パロ港の空気は錆と塩の匂いが混ざっていた。海に来るのも久しぶりや。
かもめの鳴き声が聞こえて、故郷のことを思い出した。ガキの頃、というと兄貴分たちが失笑するから言わんけど、俺と片割れがまだ中坊の時いた街が海に囲まれたところやった。
煙草を口に咥えて火を灯す。事務所だと北さんが嫌煙家のせいでろくに吸えん。
おつかいは面倒やけど、気晴らしにはちょうどよかったんかもしれん。
沖に、くたびれた貨物船が近づいてくる。錆びだらけの船体が潮をはねながら、ゆっくりと岸壁に寄せられていく。
舷梯が降ろされ、作業員に混じって乗客らしき影が見えた。
薄汚れたパーカーのフードを被って、やたら軽い足取りで降りてくる小柄な男。
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