ファとラの話 慣れ親しんだ景色が次第に遠ざかり、鉄の塊は黒煙を吐きながら異郷の地を往く。
できるだけ遠く、誰も知らない場所へ。逃げるように俺はここまでやってきた。そうせざるを得なかった。夢も、約束も、それをつかむための努力も、すべて中途半端のままにして。宙に掲げたままの希望はそのまま高く遠く、伸ばす手から離れていくばかり。
辺りの人のざわめきがどこか靄がかって遠くに聞こえる。あれほどまでに輝いていた景色は色褪せて今はすべてが灰色にみえた。
俺は、すべてを失ってしまったのだ。
終点駅にたどり着いた汽車が止まる。次々と降りていく乗客を眺めて、俺はしばらく動けずにいた。行くあてはない。母のもとに帰ることはまだできない。もっと遠くへ。次の汽車に乗りついで、誰も知らない、見知らぬ土地へ行かなくては。
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