.「振り返れ」と、心の中で念じてみる。彼は振り返るだろうか。
ただその背中をじっと見つめて、こちらを振り返ることを祈っていた。パーティが始まってからかれこれ2時間の間、ずっと。つまりは振り返ってなんかくれなかったということなのだけど、僕はそのことにひどく安堵していた。本当に振り返られては困る。遠くからこっそり見つめるこの距離感が、今のところ僕にとっては一番に落ち着けるものだったから。
「また見ているのかい」
「寮長。はは、バレちゃいましたか」
「君がケイトを見つめる視線に気づかないヤツなんかいるものか」
「ええ、張本人が、」
ああ、と寮長は短く息を吐いて、やれやれと肩をすくめてみせた。
「ケイトだって、本当に気づいていないかどうか……」
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