「ウィリアム・テルごっこに僕を巻き込まないでください!」
そういって後輩は、頭にさっきまで乗せていたリンゴを机に投げつけた。私の弓は百発百中なのに……。乗り気じゃない後輩を無理やりつれてきたのは私が悪かった。でも来てくれたからには最後まで付き合ってくれてもいいじゃないか。もう用はないとばかりに部屋から出ていこうとする後輩の背中を見ていると、悪戯心が沸き上がってきた。ノリが悪い後輩を少しばかり驚かせてやろうと、矢はつがえずに後輩に向けて矢を放つ真似をした。
この時の私は完全に忘れていた。手に持っている弓は普通の弓が見当たらないからととりあえずもってきた、愛の弓であるということを。そして、愛の弓は矢をつがえずに放つと愛の矢が生成されるということを。
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