お伽話 都合の良いお伽話に夢を見ていた。
目覚めた世界の空は重く張り詰めた表情を浮かべ、硬い地面はじわじわと僕の体温を奪っていく。
5限のはじまりを知らせるチャイムが響いた。でも、僕を授業へ連れ戻そうとする人はいない。僕と共にショーをしようと言ってくれた君は、居なくなってしまった。いや、居なくなったというよりは"元から居なかった"のだろう。
それもそうだ。僕の演出が必要だと、僕の想いにあんなに応えてくれる人間なんてそうそういるはずがないのだ。だからあれはただの夢で、「未来のスター」は僕が創り出した理想の仲間だったんだ。
「……司、くん」
それでも。
「君の事、好きだったな……」
彼の眩しいくらいの笑顔が胸に焼き付いてしまって。僕がひとりであることなんてわかりきっているし、それでいい。そうだ。「天馬司」なんていない人間のはず。しかし、まるで"また"孤独になってしまったような苦しさを覚えているのも事実だった。夢の中の人間に恋をするなんて、我ながら馬鹿げたものだと自嘲的な笑みが零れた。
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