そういう魔法 放課後のしずかな廊下をゆったりとあるきながら、ときどき立ち止まって考えるそぶりを見せて、経路を選んでいく。
竹谷を捜してきてくれないかと言われたのは、部活動──伊賀崎は生物部に所属していて、竹谷もまたおなじである──の真っ最中で、ちょうどメダカの水槽の掃除を終わらせたときだった。
三年生は受験に向けて部活動を引退した時期ではあるが、竹谷はそんなことはおかまいなしに毎日のように部活に顔を出していた。けれど今日は活動場所の理科室に姿を見せなかったので、めずらしいこともあるものだと思っていた矢先のことだ。
生物部の顧問である木下が渋い顔をして、悪いが竹谷を捜して、自分のところにくるように伝えてほしいといってきた。どうして自分が、というのはもう考えなくなった。はじめは木下も、伊賀崎以外の部員や同級の生徒などにもそういう頼みごとをしていたのだが、どういうわけか伊賀崎だけは毎回必ず竹谷をみつけてくるので(ほかの人間だと五回に三回くらいの割合でどこにもいないと言ってもどってくることが多かった)、いつしか竹谷を捜しにいくのは伊賀崎の役目になっていた。
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