一文字則宗と審神者の娘 この本丸は、いつも秋風が吹いている。庭の木々は鮮やかに色づき、さっぱりとした秋晴れの空によく映える。じんわりと肌を焼く陽射しと、鋭さが見え隠れする冷たい空気が心地いい。屋敷の主は、そんな秋が一等好きだった。
一文字則宗はこの本丸へ配属されてすぐの頃、永遠に続く秋景色にうんざりしていた時期がある。
政府が用意したシステムの1つである景観は、この世のものとは思えないほど美しい。実際にこの世の物と呼べるのかは微妙なところだが。浮世離れした美しさにすら見飽きてしまうのは、人の身を得た末の贅沢な悩みなのだろうか。
そもそもなぜここの審神者が変わらぬ季節に耐えられるのかと言えば、彼が現世と本丸を行き来しているから、という事が大きな理由だろう。
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