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    clclya0

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    審神者の娘をいずれ主にする則宗さんの話。本編までいってない。則さに未満
    文章の書き方忘れたので練習…

    一文字則宗と審神者の娘 この本丸は、いつも秋風が吹いている。庭の木々は鮮やかに色づき、さっぱりとした秋晴れの空によく映える。じんわりと肌を焼く陽射しと、鋭さが見え隠れする冷たい空気が心地いい。屋敷の主は、そんな秋が一等好きだった。

     一文字則宗はこの本丸へ配属されてすぐの頃、永遠に続く秋景色にうんざりしていた時期がある。
     政府が用意したシステムの1つである景観は、この世のものとは思えないほど美しい。実際にこの世の物と呼べるのかは微妙なところだが。浮世離れした美しさにすら見飽きてしまうのは、人の身を得た末の贅沢な悩みなのだろうか。
     そもそもなぜここの審神者が変わらぬ季節に耐えられるのかと言えば、彼が現世と本丸を行き来しているから、という事が大きな理由だろう。
     現世で四季を楽しむことができる奴はまだいいが、ここで生活をする自分にとってはたまったものではない。最初の頃はそう悪態をついていた則宗も、変わらぬ景色にすっかりと慣れてしまった。他の刀剣たちもきっと同じだろう。住めば都とはよく言ったものだ。
     この本丸の審神者は、30過ぎの痩せた男だった。性格は非常に穏やかで、責任感が強く、非常に信心深い。主という立場にあぐらをかくことなく、刀剣男士達に対して神として畏怖の感情を向けていた。
     則宗は、道具は人に使われてこそと考えている。物に価値を見出すのも、自分達を神へ昇華させるのも人。人が自分達を神として扱うことを求めているのならば、道具としてそれを受け入れることも必要だと考えている。
     ……表向きには。

    「御前様」
     穏やかな声音で名前を呼ばれ、則宗はそちらを振り返った。色素の薄い濃淡のある碧眼が、紅葉を背に立つ男の姿を捉える。
    「やあ、主。今日はやけに早いじゃないか」
     いつもなら、巳の正刻……午前10時頃に審神者はこの本丸へやってくる。しかし今日は、それよりも1時間早い到着だ。
     普段であれば審神者が本丸へ入ってすぐに朝礼と呼ばれる集まりがあり、全ての刀剣男士達が広間に集まる。そこでその日の予定の確認や、前日に帰城した遠征部隊の報告会などが行われるのだ。
     朝礼までの時間は、刀剣男士達にとっていわゆる自由時間なのである。余談だが、炊事の係や馬当番になっている者達は他の男士よりも早くから仕事に取り組んでいる。そのかわり昼の休憩が長めに設定されているのだ。
     則宗は当番があるわけではないが、大抵早朝に目を覚ましている。本人曰く、年寄りのサガだ、と。
     この日も支度を終え、日課である散歩をしていたところだった。他の刀剣男士達の中には未だに夢の中にいる者たちもいる。今、審神者が本丸の扉を叩いたなら、大変な混乱に陥るだろう。
     則宗は慌てて飛び起きるやんちゃ坊主達の姿を想像して、込み上げてくる笑いを飲みこんだ。
    「これには少し事情がありまして」
     そう言って苦笑する審神者が背負っているものを抱え直したのを見て、則宗は目を丸くした。長いまつ毛に縁取られた瞳を細め、目利きでもするかのようにまじまじとそれを見つめる。
    「お前さんの子か?」
    「はい。今年で5つになります」
     則宗の不躾な態度を咎めることなく、審神者は眠っている幼い娘の顔を則宗に見せた。その頬は過ぎるほど赤く、苦しそうな吐息は熱を帯びている。
    「熱を出しているのか」
    「ええ。保育所へは預けられませんし、妻にも仕事があり……今日はこちらで面倒をみることになりまして……」
     言いづらそうに申し出た審神者と、娘の顔をじっと見つめて、則宗は爛漫とした笑みを浮かべた。
    「よし、ならばこの娘の世話は僕に任せるといい」
     その言葉に審神者は目を見開き、開いた口を閉じることすらできぬまま固まった。
     面倒見のいい燭台切や一期が世話を申し出てくれるかもしれないと期待していたのは事実である。が、まさか則宗がその台詞を投げかけてくるとは、流石の審神者も思っていなかった。
    「え、ご、御前様が……この子の面倒を、ですか?」
    「そうだ。…………なんだ、その目は。僕に子守りはつとまらないとでも?」
     わざとらしく声を低くして不満げに顔を歪めた則宗に、審神者は慌てて首を振る。
     ならば決まりだな、と則宗は鼻歌混じりに審神者の背から娘を剥ぎ取った。なんと変わり身の早いことか。
     付喪神に逆らうことなどできはしない審神者も、流石にこの瞬間は顔を青くして、冷たい汗がその背につたった。
     一文字則宗。この美しい刀が子を抱く姿など、想像ができなかったのだ。   
     そんな審神者の心配をよそに、則宗は慣れた手つきで娘を抱え、あやすように体を揺らした。
    「ああ、愛い。愛いな」
     則宗は歌うように呟く。
     やがて薄く瞼を開いた娘が、則宗の柔らかな金髪に手を伸ばした。秋の日差しを浴びて淡く光るその髪に指を挿し、拙く梳くように髪を引く。娘のその仕草に、則宗は満足げに口元を緩めた。
    「さて、いつまでもここにいては冷える。病人は布団に寝かせてやらねば。ひとまずは僕の部屋へ連れて行くが、かまわんな」
     則宗の言葉に対して審神者は何か言いたげに口を開いたが、喉奥からは空気の漏れ出るような音しか溢れず、やがて言葉を紡ぐことを諦めたように唇を結んで頷いた。則宗に大事な娘を預けることに対して不安がないと言えば嘘になるが、そんな不敬なことを言えるはずもない。
     ご機嫌な様子で屋敷の中に姿を消した則宗の背を呆然と見つめながら、審神者は「まめに様子を見に行ってもらえるよう、燭台切様に頼もう」と心の中で誓った。
     
     朝の本丸は慌ただしい。体を清める者、朝食をかきこむ者、髪を結い化粧を施す者……各々が支度をする生活音が響く本丸は、審神者にとって新鮮なものだった。
     朝礼までの時間を執務室で過ごすことになり、どこか落ち着かない様子で長谷部が淹れてくれた茶を啜る。
     そもそも、彼がいつもより早く出勤したのは、娘を寝かせるための準備やらを自分がすると思っていたからだ。
     布団を敷き、娘を寝かせ、額に冷感シートを貼り直し、水分補給のためにスポーツドリンクを飲ませてやるといった手間を、まさかあの則宗にさせることになるとは。則宗が幼子に対して甲斐甲斐しく世話を焼く姿がどうにも想像できず、審神者はそわそわと落ち着かない。
     その時、障子の向こうから燭台切の声がした。審神者は慌てて障子を開く。
     青い顔をした審神者を落ち着かせるために、燭台切は穏やかに話し始める。
    「頼まれた通り様子を見てきたんだけど、特に問題なかったよ。則宗さん、子供の世話に慣れてるんだね。驚いたよ」
     燭台切の言葉に、審神者はほっと胸を撫で下ろす。しかしすぐに表情が強張って、縋るように燭台切に視線を向けた。
    「あの子は……今は寝込んでおりますが、普段は少し怖いもの知らずなところがありまして……御前様や他の刀剣男士の皆様に何かしでかしたらと思うと気が気ではないのです」
    「うーん、断言はできないけど、則宗さんのあの様子なら娘さんに何されても怒ったりしないんじゃないかな。目に入れても痛くない、可愛くて仕方ないって顔してたよ。それに他の刀剣男士達だって、小さな子供がやったことにいちいちめくじら立てたりしないさ」
     たぶんね、と茶目っ気のある一言を残し、燭台切は執務室を後にした。その後、近侍である巴が朝礼に付き添うために執務室を訪れるまで、審神者は痛む胃をさすりながら不安に耐える他なかった。
     審神者には、先程燭台切へ伝えた心配事以外にも、不安に思うことがあったのだ。

     その日の朝礼に、則宗は現れなかった。進行を務める巴の口から「一文字則宗は本日審神者の御息女の看病を任された」と発表されれば、刀剣男士達の間からは戸惑いや好奇の声が溢れる。
     途端に騒がしくなった広間に燭台切の拍手の音が数回響き、ざわめきが止む。彼はよく通る凛とした声で言った。
    「可哀想に、娘さんは熱を出して寝込んでいるんだ。早く良くなるように、僕らも協力しよう」
     燭台切は「各々今日任された仕事に励むこと」「則宗の部屋で寝ている娘を起こさないように、付近では静かにすること」と釘を刺すことも忘れない。
     その後は普段通りに各種報告を終え、朝礼はお開きとなる。刀剣男士達はそれぞれの持ち場へと向かった。空っぽになった広間に残された審神者は近侍として控えている巴の存在も忘れ、物憂げなため息を溢したのだった。

     則宗はこの本丸で、他の元監査官の刀と同じく書類仕事を中心に任されていた。自分の分の仕事を抱えて自室へと戻った則宗は、文机の隣に布団を寄せ、机に頬杖をつく。それから眠る娘を見下ろした。赤く色づいたまん丸い頬が微かに上下するのをしばらくの間眺めていたが、ちっとも飽きないから不思議だった。
    「7つまでは神のうち、か」
     そんな言葉が生まれてしまうほど、子供というものは儚く、脆い存在だ。
     それだけではない。生まれたばかりの赤ん坊は、高い霊力を保持している。大人になるにつれて薄れていくが、7つまでは誰しも高いまま。審神者の娘がこの本丸へ足を踏み入れることができたのも、そういった理由があった。
     その時、娘の口から痰の絡んだ咳が溢れ、苦しそうに身を捩る。
     涙の跡が残る目元を、則宗は親指で拭ってやった。ふくふくと丸い頬に指の背を当てれば、自身の肌よりも熱を帯びているのがわかる。両手でその小さな顔を包み、次に首元にも手を当ててやる。
     秋の空気に晒された冷たい掌が気持ちがいいのか、娘は目を閉じたまま則宗の手に擦り寄った。
    「………………なんだろうなぁ、この気持ちは」
     想像もできないくらいか弱い存在を前に、胸の奥からどっと溢れてくる庇護欲を則宗は持て余していた。
     幼い子。幼くて脆く、とても危うい存在。
     人の姿を得た今ですら、目の前に横たわる幼子と自分が同質の存在であるとはとても思えない。赤い血潮が流れ、柔い肉と薄い皮膚に包まれているこの身は所詮仮初のものであり、自身の本質は鉄の塊であると、則宗は自覚している。
     人から称賛され、一万両の価値を与えられた自身より、目の前に横たわるこの1つの命の方が何倍も美しく、価値があるように思えてならない。
    「可哀想に。辛いなぁ、苦しいなぁ……こんな思いをお前さんがする必要はない。どれ、このじじぃが1つ、加護を授けてやろう」
     この手のことは本業ではないから、効き目はイマイチかもなぁ。許せ。
     独り言のようにそう呟きながら、則宗は娘の額に人差し指を当てた。狭い額に文字を書くようにして指先を滑らせ、仕上げと言わんばかりに眉間を小突く。
     娘は一度、すぅと深く息を吸った。それからは頬の赤みがいくらかマシになり、彼女が立てる寝息も穏やかなものに変わる。
    「いい子だ。ゆっくり休めよ」
     則宗は娘に寄り添うように畳の上に寝そべって、片手で娘に布団をかけ直してやる。それから腹の辺りをポンポンと撫で、うろ覚えの子守唄を歌ってやった。
     軽やかな秋風がカタカタと小刻みに窓枠を揺らす。則宗がうつらうつらと船を漕ぎ始めたその時、断りもなく襖が開けられた。
    「………………則宗さん、その子に何したの」
     急ぎ買い足したスポーツドリンクを抱え、真っ青な顔をした燭台切がそこに立っていた。彼は信じられないものを見るような目で則宗を見下ろしている。
    「なんだなんだ、怖い顔をして。……ちょっとばかしまじないをかけただけだ」
    「まずいよ、主の許可もなく娘さんにそんなことしちゃ!」
    「そんなこととはなんだ、そんなこととは」
     慌てふためく燭台切とは反対に、則宗は眉を寄せて不服を表す。
     2人の声に目を覚ましかけた娘が小さく唸って身を捩れば、燭台切は慌てて口元を押さえた。やがて規則正しい寝息が耳元に届くとほっと息を吐き、なんでもない顔をして寝そべっている則宗のそばへ寄る。
    「則宗さんは、この子を自分に縛りたいのかい?」
    「人聞が悪いな。ちょっとばかし守護のまじないをかけただけだろう」
    「それがどういう意味になるのか、わからない君じゃないよね」
     金色の瞳がじっと則宗を見つめ、その視線に則宗はやれやれと体を起こした。あぐらをかき、燭台切と向かい合う。
    「責任は取るさ」
    「そういう問題じゃないでしょ」
    「ならばお前さんは、この子がこの先、病に侵されることがあっても良いというのか? 不慮の事故にあい傷ついても良いと? 何者かによって危害が加えられるかもしれん。幼子でなくとも、人は簡単に死ぬぞ」
     そう言い切った則宗を前に、燭台切は困り果ててしまっていた。そりゃあ確かに、大切な主の子女を守ってやりたいという気持ちは燭台切にもある。この本丸に所属している刀ならば、皆そう思うだろう。
     しかし、それとこれとは話が違うのだ。則宗の行為はこの娘と付喪神である彼自身との縁を強制的に結ぶもの。それは娘の守護にもなるが、それ以外の厄介ごと――神からの執着を、死ぬまで受けることとなるということだ。
     おそらく、審神者が最も恐れていた事態はこれだったのだろう。則宗が不気味なほど娘の面倒を見ることに対して乗り気であった時点で、こうなることは予想できたのかもしれない。
     ようは、この子は一文字則宗という付喪神に気まぐれに見初められてしまったのだ。よりによって力の強い則宗に見つかったのが運の尽きだった。こうなってしまえば、もう外野にできることはない。
    「必要以上に守られることを……縁を、無理やり繋げられたことを、この子は望まないかもしれないだろう? 今後、恨まれるかも」
    「かまわんさ」
     膝に頬杖をついて体を傾けて、則宗は娘の顔を覗き込み、頬をつつく。悪びれもしないその態度に、燭台切は溢れそうになるため息を飲み込んだ。
     慈愛に満ちたその瞳の奥に、仄暗い執心が揺れているのが見てとれてしまうから困る。
    「……主になんと言えばいいか」
    「伝える必要はないあいつの力はお世辞にも強いと言えん。気づきやしないさ。知らぬが仏と言うだろう」
     たしかに、この本丸の主の霊力は審神者として最低限しかない。本丸を神域として維持するのですらやっとなくらいだ。
    「則宗さん、主に対してそういう言い方はないんじゃないかな」
    「ああ、すまんすまん。これは僕が悪いな。謝るからここは見逃してくれ」
     何を言っても響いた様子がない則宗を前に、燭台切は諦めの滲んだため息を吐いた。こうなってしまっては、もう止める術はない。
     そもそも、則宗はこの本丸の中でも異質な存在だ。審神者が1から顕現させた刀剣男士ではなく、政府から授かった刀である。審神者のことを主として認めていないわけではないのだろうが、自ら望んで降りたわけではないという気持ちがどこかに残っているのかもしれない。
     物とは、自分の意思とは関係なく人から人へ譲渡され、長い月日の中で家を渡る存在だと燭台切は思う。則宗もその認識がないわけではないのだろうが、どうやらこの個体は自ら望んだ主と添い遂げるということに異常な憧れを抱いているようだった。
    「まったく、我儘な人だなぁ……」
    「ん? うはははは! そうだな、僕は我儘で欲深い。それで構わんよ。元来神とは、人とは、そういうものじゃないか。僕はこの身を手に入れた時から、自分の欲には忠実でいると決めている」
    「はいはい、もうこのことについて僕は何も言わないよ。でも自分の仕事は真面目に取り組んでね。この子と一緒に昼寝でもして提出が遅れたりしたら長谷部君が黙ってないよ」
     そう言って、燭台切は部屋を後にした。残された則宗はやれやれと呟きながら、言い付けられた通り文机に向き、筆を取る。
     娘は秋の陽気の中、すやすやと穏やかな寝息を立てている。この本丸へ訪れた時からぐずることがないのは、よっぽどこの場所との相性が良いのだろう。安心しきった寝顔に頬が緩む。
    「ずぅっとここにいればいいのになぁ」
     眠る娘に対して、そんな言葉を向けた。今はまだそれが不可能であることも、則宗は理解している。
    「父から子へ。いつか僕は、君の手に渡る。ああ、その時が楽しみだ」
     
     


     



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