俺×ブギーダウンオフィスパロ十九時ぴったりに置かれる缶珈琲。それが僕とあの人のいつもの合図だ。
「よう、今日も残業か?お疲れさん。」
柔らかく耳を打つ穏やかな低音。草臥れた顔の僕の頬を擽る、男性向けにしては甘い香水の香り。ことり、と置かれた珈琲の銘柄はいつも同じ。ダンディな男性がパイプを咥えている。同じ珈琲を飲んでいるところを彼に見付かったのが、一番初めだった。
「ブギーさんもお疲れ様です、ありがとう。」
顔を上げれば、彼はいつもの様に微笑んでいる。整えられた髭、髪、穏やかな栗色の瞳────全てが完璧な彼は今日も、胸元の空いたシャツを着て、僕の傍に立っていた。垂れた社員証が書類の上に落ちている、それすらもセクシーだ、なんて伝えれば彼はどんな顔をするだろう。そんな馬鹿馬鹿しい考えと共に珈琲の缶を受け取れば、女性でも落とすつもりなのかと勘繰りたくなる様な笑顔を彼は零してくれる。
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