フィガロは臍を噛んだりしない 開け放された窓から、湿度の低い風が魔法舎の廊下を吹き抜けていく。中庭に面した窓という窓が片っ端から全開になっている理由は、モップで床を擦るヒースクリフと目が合った瞬間にフィガロは理解した。
「お疲れ様、ヒースクリフ」
「フィガロ先生、おはようございます」
手を止め、魔法舎きっての美丈夫が寝起きのフィガロに優しく微笑む。正午手前の太陽はほぼ頭の真上だったけれど、寝癖頭のフィガロを見てもヒースクリフは何も咎めたりしなかった。
「寝不足ですか?」
「ちょっと飲みすぎちゃって。ミチルには内緒にしてね」
人差し指を唇に当て肩を竦めるフィガロに、ヒースクリフも同じように口元に人差し指を運んだ。
「ところでヒースクリフ、君ひとりで掃除?」
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