廻る命に祝福を賢者の海
無我夢中だった。
寝食を置き去りにしてただがむしゃらに腕を動かし続けたのは、記憶が薄れていくのを恐れたからで。
絵を描く知識なんてひとつもなかった。
だけど描かなくてはいけなかった。
ハッとして目を開けた時、飛び込んできたのは薄汚れて古ぼけた天井ではなく、朧気な記憶の片隅に追いやっていた世界のそれ。
体にかけられた柔らかな布団を跳ね退け床に足を着いたが、まるで暫く歩いていなかったみたいに力がはいらない。
咄嗟に引っ張った布団と共に縺れるように転がれば、派手な音を立てて身体が床に叩きつけられ目線の先には綺麗に整頓された机が見えた。だけど見覚えのあるものはひとつもない。
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