髪紐の記憶第一章:迷い込み
薄暗い山道を抜けた先に、悠太は苔むした石段を見つけた。
都会の喧騒に疲れ果て、休暇を取って山奥へ車を走らせたはずが、いつの間にか道を見失っていた。
石段を登ると、傾いた鳥居の向こうに小さな神社が現れる。
縁側に座る少女がいた。
薄紫がかった白髪が肩を越えて流れ、青い目がぼんやりとこちらを見つめる。
小柄な体に白い着物と深い青の袴、桜の柄が裾に散り、羽織には菊や牡丹が咲き乱れている。
「…迷ったの?」
甘く眠気を誘う声が響く。
悠太が「え、うん…ちょっと」と答えると、
少女はお茶の入った湯呑みを手に持つ。
「…まぁ、いいけど。お茶でも飲む?」
「ここ、君の家なの?」と聞くと、彼女は首をかしげ、
「…んー、神社だけど?私、レノ」とボソボソ呟く。
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