罰の歌 古びた楽譜にのった歌へ声をのせたと思えば、あっという間に意識が乗っ取られた。家族の正気に戻るよう呼びかける声や、島民たちの悲痛な叫びが耳に突き刺さる。ウタだって止められるものなら止めたかった。
「シャンクス、助けて」
心の中で何度も繰り返した言葉が天に通じたのか、ようやく魔王がウタを手放し、彼女の足が地についた。意識の戻った彼女は気絶することなく、あたりの惨状を見回す。
「私が、私がやったんだ」
震えながら発した言葉を塞ぐようにシャンクスに抱きしめられたけれど、彼の肩越しに見える燃える景色は変わらない。血を流して倒れる人、焼け焦げた人、人、ヒト。
「私の歌が」
喉の奥は焼けそうなほど痛く、胸には穴があいてしまったようにびゅうびゅうと冷たい風が吹き込んでくる。それでもウタは自分には涙を流す権利はないと、泣くこともできなかった。ウタを赤髪海賊団の音楽家たらしめていた歌が、ウタの心を支えていたものが、アイデンティティが崩壊していく。
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