朴念仁の覚悟 去年卒業した先輩が死んだらしい。
そんな噂が忍たまたちのあいだを触れ回ったのは、四年生の冬のことだった。
名前を聞けば「あぁ、あの」となる程度には知っていて、涙が出るほど親しくはなかったその先輩は、どうやら忍務の途中で敵の罠に落ちたらしい。
罠といっても二年い組の綾部喜八郎が狂ったように掘るような物理的なものではなく、もっと巧妙で悪どいものだ。平たく言えば欲に溺れた。あるいは色に囚われたとでも言うべきか。
くれぐれも敵方の城の女中になんぞ惚れるもんじゃないぞ、と当時の会計委員長に釘を刺された俺は、忍者の三禁を決して破るまいと心に誓ったのだ。
恋とは恐ろしい。命がけの実習を積み、難関な試験に合格して卒業した先輩が簡単に引っかかって命を落とす。色事の得意な仙蔵と違って未熟な俺が溺れれば、たちまち全てを奪われてしまうに違いなかった。
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