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    『Looking back, Coming back』の後日譚的なもの ほとんど蛇足

    朴念仁の覚悟 去年卒業した先輩が死んだらしい。

     そんな噂が忍たまたちのあいだを触れ回ったのは、四年生の冬のことだった。
     名前を聞けば「あぁ、あの」となる程度には知っていて、涙が出るほど親しくはなかったその先輩は、どうやら忍務の途中で敵の罠に落ちたらしい。
     罠といっても二年い組の綾部喜八郎が狂ったように掘るような物理的なものではなく、もっと巧妙で悪どいものだ。平たく言えば欲に溺れた。あるいは色に囚われたとでも言うべきか。
     くれぐれも敵方の城の女中になんぞ惚れるもんじゃないぞ、と当時の会計委員長に釘を刺された俺は、忍者の三禁を決して破るまいと心に誓ったのだ。

     恋とは恐ろしい。命がけの実習を積み、難関な試験に合格して卒業した先輩が簡単に引っかかって命を落とす。色事の得意な仙蔵と違って未熟な俺が溺れれば、たちまち全てを奪われてしまうに違いなかった。
     恋には人並みに憧れていた。いつかは妻を持ち、子供を持つのだと思っていた。しかし忍の道を往くのであれば、恋というものとは距離を取らざるをえないと思った。
     忍術学園には妻子がいる先生がいて、それが生きる力になるということも十分わかっている。学園長にだってガールフレンドがいるし、くノ玉と密かに通じている先輩がいることも知っている。
     それでも、両の手にあれもこれもと持つような器用な生き方は俺にはできない。忍として生きることこそ俺の使命であり、自分より大事なものは作らないと決めた瞬間だった。

    ***

     両の腕で田村を抱きしめたことで、積年の拗らせた思いがふわりとどこかへ飛んでいった。ここは室町でもなければ、俺も田村ももう忍者ではない。自分より大事に思うものがあっても命を落とすことはないのだと知り、凍らせた心の一片が今雪解けを迎えている。
     華奢な身体。火薬の匂い。獲物を狙う鋭い眼差し。感情を伝える眉に、生意気な口。背すじの伸びた立ち姿。少し背伸びしながら理想に対して努力を惜しまないところも、何もかもが愛おしい。
     記憶と現実が交錯する。もうこの感情に蓋をしなくてもいいのだと思うと目眩がするくらい幸せだった。
    「田村、好きだ。……ずっと好きだった。」
     この気持ちに嘘はない。田村の勢いと仙蔵の後押しがなければ踏み出せなかった臆病者だが、どうか俺を信じてほしい。そう願いながら抱きしめる腕の力を強めた。
    「私も、潮江先輩をお慕いしています」
     言わんとすることを正しく受け取った田村三木ヱ門は、見事に俺が欲しかった言葉をくれた。なんと優秀な後輩だろう。なんと聡くて、可愛くて、愛おしい奴。
    「これからもそばにいていいか」
     明日も明後日も。来年もその先も、十年後も二十年後も。死が俺たちを分かっても、天国でも地獄でさえ、また生まれ変わったその先でだって、俺は。
    「田村と一緒に生きていきたいんだ」
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