兼さん 真夏。
蝉も木陰で一休みしているような暑い日。
和泉守は、部屋で組紐手芸の本を読み耽っていた。
最近、お洒落を嗜む本丸男士の間では手芸が流行っている。和泉守兼定もご多分に漏れず、組紐手芸を数ヶ月前から始めていた。
ちょうど頼んでいた本が届いた午後という事もあって、和泉守は暑さも忘れ、本を片手に手元のノートに鉛筆でメモをとっているところだった。
こうして空き時間を見付けると組紐の本を読み、自分の作りたいオリジナルの作品のイメージを練ってから、自分好みのオリジナル作品を作る。
和泉守は、既にお洒落な男士達から一目置かれるほどの腕前だった。
「兼さん」
ふと、堀川の声がする。
夢中で構想を練っていた和泉守だったが、反射的に顔を上げ、返事をした。
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