リモニウム・レコード「オレさま、来月ここ出るわ。」
久しぶりにオフがあい、ワイルドエリアの穴場でバトルをした直後にそう彼は言った。背中に感じる芝と汗のにおい。まだ興奮がひかないのか、その言葉を聞き、胸が大きく波打った。走った後のような、爽快な息苦しさの中、心地よさに任せていた目を開け、同じように横に寝転がるキバナを見る。
「きみ、ワイルドエリアに住んでいたのか。」
「そうじゃねえよ、ガラルをでるんだよ。」
大事な話してんのに冗談言うなよと、彼はあっけらかんと笑っていた。
その後も何やらキバナは話を続けているようだが、言葉をうまく処理できない。耳に水が入った時みたいにぼやけてよく聞き取れない。
「……ずいぶん急だな」
景色がちかちかする。いやに心臓がうるさくて、うまく言葉が出てこなかった。もっと聞くべきことがあるはずなのに、その時のオレにはそれが精一杯だった。冷たい風が汗を拭う感触を今でも鮮明に覚えている。
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