Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    uranoMTME

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    uranoMTME

    ☆quiet follow

    長編を書こうとして力尽きてる小説の序章の序章

    リモニウム・レコード「オレさま、来月ここ出るわ。」
    久しぶりにオフがあい、ワイルドエリアの穴場でバトルをした直後にそう彼は言った。背中に感じる芝と汗のにおい。まだ興奮がひかないのか、その言葉を聞き、胸が大きく波打った。走った後のような、爽快な息苦しさの中、心地よさに任せていた目を開け、同じように横に寝転がるキバナを見る。

    「きみ、ワイルドエリアに住んでいたのか。」
    「そうじゃねえよ、ガラルをでるんだよ。」

    大事な話してんのに冗談言うなよと、彼はあっけらかんと笑っていた。
    その後も何やらキバナは話を続けているようだが、言葉をうまく処理できない。耳に水が入った時みたいにぼやけてよく聞き取れない。

    「……ずいぶん急だな」

    景色がちかちかする。いやに心臓がうるさくて、うまく言葉が出てこなかった。もっと聞くべきことがあるはずなのに、その時のオレにはそれが精一杯だった。冷たい風が汗を拭う感触を今でも鮮明に覚えている。

    「お前な、ちゃんと話聞けよ。だから二か月間徹夜で調整したって話。ジムリとかの心配はしなくて大丈夫だよ。」

    そう言うなり、キバナはオレのこめかみあたりを拳でこずいてきた。もちろん痛くないので無視を決め込み、オレの意識は外へ向かう。なるほど。それは中々都合が合わないわけだ。ところでなぜその話がオレの耳に届いてないんだ。

    「…オレが黙らせてただけだ。気にすんな。」

    顔に出ていたか。ハッと少しばかりの恥ずかしさに口元を片手で隠す。キバナはどこか愉快そうに反応を愉しんでいるようだ。それも、穴が開いてしまいそうなほどじっと見つめて。

    「そんなにオレの顔が面白いか?」
    「いいや、ちがう。お前、逆向いてみな。」

    そう促され、視線を移すと、夕日のようなオレンジに青緑色。その見慣れた瞳が少しばかり不服そうにしているのに気が付き、急いで飛び起きる。隣のキバナは急に動いたからか、少し体をはねさせた。それがとっても愉快で仕方がない。

    「すまない!腹が減ってるはずだな!今すぐ作ろう」
    「ドガース級は勘弁してくれよな。」
    「安心しろ、まごころで何とかなるもんだぜ!」

    二人のため息を背中に受けながら、カレー作りの準備に取り掛かる。いつもの会話にいつもの食事を、最高の相棒とかけがえのないライバルとで過ごすこの時間は、これまでもこれからも、大切にしたいと祈りながら。


    ***


    時がたつのはずいぶん早いものだ。キャンプの後からはタイミングよく、キバナのジムリーダー引継ぎの件で次から次へと仕事が来るような状態だった。その間、キバナと連絡することがあったが、おおむね事務的な連絡ばかりになり、またお互い忙しかったため、出発日である今日、久しぶりに顔を合わせることになってしまった。やるべき仕事はまだまだ山のようにあるが、バトルタワーのスタッフたちの気遣いで見送りに行けることになった。関係者をみな集め、見送る形はどうかとキバナに提案してみたが、空港に迷惑がかかっちゃうだろ?とお得意のナルシシズム的なジョークでかわされてしまった。本人が望まないのならと、内密に日程を決定したが、やはりガラル中から見送られた方が、この男には似合っているように感じてならないのだ。

    そうこうしているうちに、彼のいる搭乗ゲートにたどり着いた。

    「キバナ!」

    空港のエントランスに、芯の通ったアルトが響く。ブーツを軽やかに鳴らし、椅子に座っても目立ってしまう青年に歩みを進めた。険しい顔をして資料を読んでいたかと思えば、見慣れた双葉を見るなりすぐに人好きする笑顔に表情を変化させた。

    「おまえ、さては仕事抜け出してきたな?」

    眉を上げ、肩をすくめるようなしぐさをし、困ったようなふりをする。キバナが照れくさい時によくする癖だ。本人は気づいていないらしい。指摘するつもりもない。かわいらしい彼の癖は俺だけの秘密である。得意げになりながら、彼の右隣の席に腰かけた。

    「そういいながら嬉しいんだろ。」
    「まあな。オーナー様の破天荒具合にはスタッフたちに同情するけど。」

    彼はよっぽど、自分自身が俺にとって優先順位が低いと思っているらしい。自分のしたいことをほっぽってまで駆けつける存在は君しかいないのに、鈍感な奴だぜ。それにキバナはガラルから愛されているのだから、スタッフたちが旅立ちを祝わないわけがないのだ。事実、今この場にいるのは、スタッフたちの気遣いと仕事ぶりのおかけだ。

    「みんな、『またお会いする日を楽しみにしています』と言っていたぜ。」

    さすがキバナだな、そう彼に笑顔を向け、固まった。オレはてっきり照れるか、俺様さすがだななんて、おどけるように笑うと思っていたからだ。彼は目を見開いて、眉を少しハの字にしていた。と思ったら次の瞬間には、犬歯をニッと見せて笑った。

    「…俺様、さすがだな!」

    予想は大当たり、だが、一瞬寂しそうな顔をしていたのをオレは見逃さなかった。彼もガラルから旅立つことを少しでも寂しいと感じているのだろう。そんな顔もできるんだな。さらに口惜しさを募らせながら、目の前にたたずむガラス張りに目をやった。

    世界で一番の友人の門出は、まさに快晴だった。天井まで続くガラス張りは、みはなだに染まり、勝手ながらうらやましく感じた。ああ、君は空からも祝福されるのか。

    「…大きくなって戻って来いよ」
    「ふふ、もう十分でけぇだろ」

    ゆるりと目を細め、優しい笑顔をする。しばらくそのかわいらしい犬歯が見られなくなると思うと、胸が締め付けられる。バトルもしてないのに不思議だ。

    しばらく2人隣に座り、感傷的に空を見ていると、時間が来たのだろう、キバナがおもむろに立ち上がった。

    「そろそろ行くわ。わざわざありがとな。」
    「ああ、気を付けて。」

    そっと手を差し出され、オレも手を出し答えようとした。すると、途端に強い力で腕を引っ張られ、今度は彼の瞳の色で視界が埋まる。空よりもきれいなそれが横を過ぎ、気が付くとキバナはオレの耳元に口を寄せていた。そうだった、彼は少しばかり埃っぽいような雑多なにおいがするのだ。

    「ダンデ、ありがとう。」

    それさっきも言ってたぞと返す前に、彼が距離を置く。いつも通りの表情で目の前にたたずんで、そっと手を振り、文字通りゲートをくぐっていった。キバナの背中が見えなくなるまで、じっとその背中を見つめていた。いつも横に並んでいたせいだろうか、思ったよりも彼の背中は大きくて、少しの頼りなさを感じた。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works