Raining(雨が降ってる。)
眠りの浅瀬へ浮上して、まずはじめに一成が気がついたのはそれだった。
まだ目もきちんと開かぬまま、しばらく雨の音を聴いていた。しとしと、といった擬音がしっくりくる降り方だ。
夢を見ていた気がするが、忘れてしまった。ようやく上下のまぶたが離れ、一成の黒い瞳は視界をとらえ始める。枕元の時計は午前6時を少し過ぎていた。
(お腹すいた。)
布団を出ると、10月の早朝は肌寒い。椅子にかけてあったパーカーを羽織り、台所へ向かう。
一成はひとり暮らしだ。横浜にある大学へ通っている。今日は授業は休み。所属しているバスケットボール部の練習も休みだ。ゆっくり寝ていてもよかったが、願望とは裏腹に、しみついた習慣は崩せないものだった。
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