足元で波の音がする。
息を吸って吐く間に海水が下着まで侵食する。深夜の海はブラックホールのようだ。体の半分をブラックホールの好きにさせて、少しだけ上を向く。今日は昼からずっと曇っていて一日中憂鬱だった。当然星も月も見えない。
指先がきんと凍り付くような寒さだった。波の流れに逆らうように一歩ずつ前に進んでいくと、ふと右足が一気に沈んだ。
「あっ」
踏み出そうとしていた左足のバランスが崩れた。何かを掴もうと伸ばした手が空を切る。
ばしゃん。
全身が冷たさに包まれる。思いっきり海水を飲み込んでしまって喉が気持ち悪い。体を起こそうと地面に手をつこうとして、ほんの少しだけ砂を握った。少し奥まで入りすぎた! こんなに寒い中海に入った自分は何でもできるような気がして調子に乗った!
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