20250225 ある技術者の日記
煩わしいほどに明るい満月の下、人間が活動をやめる時間帯に僕は重たい腰をあげていつもの場所に向かう。
つまり勤務外の真夜中にわざと研究所を訪れたということだ。
いい加減この気味の悪い日課はやめるべきだとは思うが、夜は盲目になるものだ。仕方がないだろうと自分を納得させて静かに所内を歩く。
この時間帯に活動する人なんてあの人くらいだろう、そう思って思い出のネームプレートをカサついた指の腹で撫でた。
ふと耳元で羽音が微かに聞こえた。いつもよく聞く音だ。
あの人のそばにいると良く聴こえる音、あの人のことを考えてしまう音。
案の定自分の頭上には微かに鱗粉を残して漂う白い虫がいる。
「…蛾、か。」
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