県祭り後の話「久美子ちゃん」
鈴が鳴るような心地のいいその声は、久美子の心臓をギュッと締め付け、肩を跳ね上がらせた。マウスピースから口を離し、ユーフォニアムを傾けて視線をその相手に向ける。
「真由ちゃん……」
「あ、ごめんね。また驚かしちゃったかな?」
久美子の反応に申し訳なさそうに真由は首を少し傾ける。その時にさらりとした細く長い毛が肩からするりと落ちた。
「ううん。ごめん、集中してて……」
久美子はよっこいしょとユーフォニアムを膝から下ろして真由ちゃんに向き直る。
「それで真由ちゃんはどうしたの? また個人練の場所探し?」
今は個人練習の時間だ。久美子はいつも通り校舎裏の定位置で一人練習に励んでいた。そこへ真由がやってきた。あの県祭りの前の日のように――
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