押し花の約束「珍しいものを使っているな」
同棲中の恋人からオクジーは不意に声をかけられた。
読書中であったオクジーは、読んでいた本から顔を上げる。
飛び込んでいた二百年前の舞台から現代へ、意識を一瞬にして引き戻されたオクジーは瞬きを数回した後に恋人、バデーニの手元へ視線を移した。そこには昨晩から読みかけのページを律儀に今日まで知らせてくれていた栞が彼の骨ばった指へ挟まれている。
なんの嫌味も感じられない、純粋にこれといった意図もなく心から溢れ出たような言葉へオクジーは返事を返す。
「あぁ、これですか。押し花の栞です、実はずっと使ってて」
「押し花であるというのは見たらわかる。……ところで君は、花が好きだったのか?」
6586