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    wh50581

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    wh50581

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    バデオクです。全年齢。現パロ。
    タイトルに反してややギャグ寄り。
    恋愛偏差値が低い故に初デートでドタバタしてるノヾさんのお話。
    ※かっこいいノヾさんは本作におりませんのでご注意を。
    ⚠️山道の花を持ち帰る描写がありますが、本来推奨される行為ではありません。あくまでフィクションということを念頭にお読みください。

    押し花の約束「珍しいものを使っているな」
     同棲中の恋人からオクジーは不意に声をかけられた。
     読書中であったオクジーは、読んでいた本から顔を上げる。
     飛び込んでいた二百年前の舞台から現代へ、意識を一瞬にして引き戻されたオクジーは瞬きを数回した後に恋人、バデーニの手元へ視線を移した。そこには昨晩から読みかけのページを律儀に今日まで知らせてくれていた栞が彼の骨ばった指へ挟まれている。
     なんの嫌味も感じられない、純粋にこれといった意図もなく心から溢れ出たような言葉へオクジーは返事を返す。
    「あぁ、これですか。押し花の栞です、実はずっと使ってて」
    「押し花であるというのは見たらわかる。……ところで君は、花が好きだったのか?」
     そう言った記憶はないが、と続けた彼はオクジーの返答では満足しなかったらしく質問を投げかけた。
    「えぇ、この花は大好きです」
     オクジーの返答にバデーニは軽く首を傾げる。
    「この花?君はこの花が好きだったのか。花の名前はなんだ」
    「えっと、わかりません」
    「は?」
    「あー、えっと、種類とかはわからないんです。その花」
     そんなオクジーの言葉を聞いて、頭上に浮かぶ疑問符をさらに濃くするバデーニ。
    「ただ、この花が大切で」
    「それはどういった経緯だ?」



     *



     バデーニとオクジーが現世で再会してからまもなくのことである。
     連絡先を交換した二人はごく自然な流れで共に出かけることとなった。
     その外出の誘いはバデーニが言い出しっぺであったが、彼がどのような思いで誘ったのかはわからない。
     待ち合わせ場所と日時以外伝えられていなかったオクジーは、気合を入れすぎていない、なるべくっぽく思われない普段着に近い服装で待ち合わせ場所へ向かった。
     待ち合わせに指定されていた場所は、オクジーとバデーニが住んでいる場所のほぼ中間にある公園の駐車場だ。
     随分と早い集合時間であるのがやや引っ掛かるものの、それを除けば至って普通の待ち合わせである。
     
     家を出て数十分。徒歩で待ち合わせ場所に向かったオクジーは、すでに待ち合わせ場所へ人が立っていることに気がつきパッと顔を上げた。
     遠くからでもわかるほどの軽やかな金色の髪は、朝日を反射しキラキラと輝いている。その人物は勿論、待ち合わせ相手のバデーニだった。
     目のギリギリで綺麗に切り揃えられた前髪と、肩ほどの長さの金髪はそよ風で軽く揺れている。
     やはり彼の容姿は目を惹く。
     しかし、オクジーが彼へ近づくにつれて、今の彼が殊更目を引く理由は、優れた容姿によるものだけではない気がしてきた。
     十メートル、五メートル……彼との距離が徐々に近づくにつれ、違和感が正体をあらわにし始める。
     そして、開口一番。
    「……バデーニさん!どうしたんですかその服装!」
    「君こそなんだその服装は!」
     お互い顔を合わせた直後の第一声がこれだった。
     まぁ、そんな反応になるのも無理はないだろう。
     なぜなら、今日同じ場所へ出かけるはずの二人なのに、その装いは正反対であったのだから。
     バデーニの服装は一目見て“これから登山に行く人”であるとわかるものだ。
     一方、オクジーは気合を入れすぎないようにと選んだラフなシャツにジーパン、サンダルだ。
     この事態を把握しようと何度も目の前の相手を上から下まで眺めること数回、先に口を開いたのは登山家の方だった。
    「君はそんな服装で山に登ろうとしているのか⁉︎」
     今日登山に行くだなんて一言も聞いていなかった。
     けれどもそれが周知の事実であるかのように振る舞うバデーニへ、オクジーは小さなめまいを感じて口を開く。
    「あの、確認しますが、誘ってくれたのはバデーニさんですよね。今日出かけるって……」
    「あぁ、確かに。誘った」
     投げかけられた質問へ、彼はさも当然といった様子で表情ひとつ変えずに答える。
     バデーニから非常識な人物を見るような視線を向けられ続け、どうしようもないモヤモヤ感に襲われるオクジー。
     だが今回の件は自分に百パーセントの非があるわけではない(こちらから行き先を確認しておくこともできたため)と思ったオクジーは落ち始めていた視線を上げる。
    「あの、今日は最初から登山に行くつもりで声をかけたんですよね?なら、事前に山へ行くって伝えてくれていればこんなことには……」
    「そういうものなのか……!」
     オクジーの意見へ食い気味に言葉を発したバデーニは髪と同じ金色のまつ毛に囲まれた目を見開き、サァッと顔を青くした。
    「……あぁ、これは予想外だ……。行き先を伝えずに……その、俗に言うサプライズが効果的だと聞いていたのだが、これでは話が違うではないか……」
     青く染まった顔のまま、ぶつぶつと早口で呟き続き始めたバデーニ。手を顎に当てている様子から、彼は完全に思考の水底へ沈んでいるようである。
     ただならぬ様子のバデーニのことは勿論気にかけつつも、オクジーの心は彼が発したある言葉に引っかかりを感じていた。彼が言った“効果的”とは。一体何についての効果なんだろう。
     今すぐにでもその言葉の真意を訊ねたいが、それをグッと堪えたオクジーは代替案を告げることにした。
     今日という一日を少しでも“楽しいもの”へするために。
    「じゃぁ、これは提案なんですが……バデーニさんが今日行こうとしてた山に行きませんか?」
    「……なぜだ、もう行く必要がないだろう」
     ついさっきまで絶望の淵に佇んでいるかのような雰囲気を放っていた彼は、すぐに顔色を戻すとぴしゃりとオクジーの発案を遮った。その有無を言わせぬような遮断の勢いへ、オクジーは足元がぐらつくような気持ちになるが必死で踏ん張り言葉を続けた。
    「たしかに必要はないかもしれません。けど、せっかくあなたが考えてくれた計画なんです。登山口にレストハウスとかあると思うんで、よかったらそこでご飯を食べましょう。……ちなみに言っておきますが、これはあなたの感じている必要性を除外した、俺のただの思いつきと希望です」
     まっすぐ目を見て伝えるオクジー。
     彼より少し低い位置にあるバデーニの瞳がかすかに揺れた。
    「……君の希望か、なるほど。それになかなか悪くない案だ」
     バデーニの表情筋が緩んだらしく、引き結ばれていたその口はかすかに弧を描く。
    「それに、この日のために揃えた服なんです、せっかくだし山の空気に触れさせてあげましょう」
     今度俺も登山グッズ買ったら一緒に山へ登るんで、と言って笑うオクジー。その顔には安堵の色が浮かんでいる。
    「……君といると相変わらず退屈しないな」
     もう一段階頬を緩めたバデーニは、そう口にすると自身の車へと向かって大股で歩き出した。

     登山口のレストハウスの食堂は、到着した頃にはそれほど混んでいなかった。
     むしろ下山した人々で主に賑わその食堂は、こんな半端な時刻に利用していることの方が珍しいとも言える。
     席に着いてからお互い違うランチメニューを頼んだバデーニとオクジー。
     バデーニはサラダとスープ、具材たっぷりのサンドイッチのセット。オクジーはハンバーグとスープ、パンのセットを注文した。
     ちなみに、彼ら二人の組み合わせが客観的に見ると非常にちぐはぐであったのは言うまでもない。
     一人は登山のための服装、片や一人は登山をするとは到底思えない、素肌を晒した服装。
     朝にあった一悶着を知らない限りは、この二人は一体どんな気持ちでどんな関係性でここにいるのだろうかと思わせる雰囲気を纏っていた。
     それでも、異様な二人の様子に特別声をかけるでもなく淡々と料理を運ぶ店員はまさにプロである。
     ほぼ同時に目の前に運ばれてきた料理を前に、二人は軽く手を合わせた後、備え付けのカトラリーを手に取った。
     ほかほかと湯気をあげているコンソメスープの香りがなんとも食欲をそそる。
     オクジーは一口分切り分けたハンバーグを口へ運びながらバデーニへ疑問を投げかけた。
    「あの、なんで急に登山なんて?」
     サラダに載っている豆を几帳面にフォークの背で潰しながら、バデーニは口を開いた。
    「登山というのは共に山頂を目指すという共通目標を成し遂げることで、達成感の共有をすることができる。その結果、二人の距離をより縮めることができる。また、自然の中で過ごすことによる非日常的な開放感、さらには体力やペースの違いによって相手の本来の部分が可視化されることでその人柄がよくわかると言われている。以上のことから私は、オクジー君との初めての外出にここが適切だと判断したのだ」
     彼の回答の勢いと情報量の多さに圧倒され咀嚼を忘れていたオクジーは、口の中に残ったハンバーグの肉片をなんとか処理しようと顎を動かし始める。
     彼が述べた理由は概ね理解できた。しかし、なぜ彼は自分と距離を縮めたがるのか?さらには人柄をよく知ろうとするのか?考えれば考えるほど疑問が次々に浮かんでしょうがない。
     なんとか聞き返そうと口内に残った肉の嚥下を試みるものの、大雑把に刻まれたそれはなかなか噛みきれず、うまく飲み込めなかった。
     一人で口の中のものと闘っているオクジーの様子など気にも留めずに、バデーニは言葉を続ける。
    「……つまり私は君と、オクジー君と、今世ではそういう関係になりたいと思っている。だから今回登山に行こうと考えた。先程述べた登山の効果を利用することで、よりスムーズに心理的距離を縮められると思ったんだ。ちなみに先ほど述べたそういう関係とは、友達以上のそれだ。俗に言う恋愛関係と言ったら理解が早いか」
     尚も真顔で、淡々と告げるバデーニ。
     しかし、その落ち着いた口調とは正反対に、彼の放った言葉はとんでもなく熱く、情熱そのものの色を放っていた。
     オクジーがその熱のこもった言葉とハンバーグを飲み込んだのはほぼ同時であったが、粗挽き肉は見事に彼の食道へつかえる。
     ゲホゲホと咽せこむオクジーを見たバデーニは、テーブルを挟んだ向かい側から彼の肩へ慌てたように腕を伸ばした。
    「大丈夫かオクジー君!」
    「だ、大丈夫です、はは……」
     なんとか笑顔を作ってその場をやり過ごしたものの、あまりに唐突な告白めいた発言によりオクジーの心はざわついていた。
     ――そもそも、こういったことはもっと段階を踏んでからでは……いや、バデーニさんならそんなありきたりな枠組みに囚われないのかもしれない。でもそう言ったって……。
     彼の心の動きを理解しようと、必死で思考を巡らせるオクジー。
     彼は何か大きな勘違いをしているのではなかろうか。それとも、こちらが彼の言葉を都合よく聞き取ってしまった?
     肩に乗せられたままの手のひらの温かさへこっそり感謝をしたオクジーは、頭を飛び交う憶測たちを拭い去るべく冷えたグラスの水を一気に飲み干したのであった。

     二人が食事を終えた頃、早朝に山へ登っていた客たちが下山をしたことで一気に周囲の人口密度が増す。
     賑やかになる店内へ明らかな異質として存在する二人組は、早々にその食堂を後にした。
     バデーニが全額払うと言ってきかなかったが、今回は無理やり割り勘にした。
     登山がキャンセルになったことへ申し訳ないと思う気持ちがないわけではない、オクジーなりの気遣いである。
     車までのわずかな道のり、オクジーがすれ違う登山客たちに心底不思議そうな目で見られたのは一、二度ではなかった。
     そして極めつけと言わんばかりに、その二人組は山道には向かないであろうFR駆動かつ二ドアの車へ乗り込むのだ。
     運転席に乗るのは登山ウェアをかっちりと着込んだ男。一方で、助手席に乗るのはシャツにジーパン、サンダルのラフな服装の男。
     明らかに奇妙な組み合わせの二人組へ、チラチラと視線が刺さるのは当然だろう。
     人々の目線を遮る気持ちで金属製のドアを閉めると、響く車の起動音。
     助手席でシートベルトを装着したオクジーは、低いエンジン音と共に車が動き出すのを待つ。
     しかしいつまで経っても車は動かなかった。
     違和感を感じたオクジーは運転席へ目を向ける。そこには、片手はハンドル、もう片方の手はシフトレバーへかけたまま固まっているバデーニがいた。
     異常を感じたオクジーは思わず声をかける。どこか具合でも悪いのだろうか。
    「あの、バデーニさん、どうされました……?」
     オクジーの声が届いているのか否かわからないまま、バデーニは何も言うことなく運転席のドアを勢いよく開けると車外へ出て行った。
    「あっ、え!?」
     突然の事態に声にならない声をあげることしかできないオクジーは、慌てて助手席側のドアを開けて車の上へ顔を出す。
     その視線の先には登山口へ向かって早足で歩いていく、運転席にいたはずの男の後ろ姿があった。
    「ば、バデーニさん!?」
     どうしたんですか、という意味も込めて大きめの声で彼の名を呼ぶが、金色の髪を左右に揺らして歩く彼はその声へ振り返ることなく歩を進めた。
     急な行動に尚のこと心配になってきたオクジーは、急いで車から降りて彼の背中を追いかける。
     しかし、サンダルではこの砂利道を走りにくい。いつも通り走れたらきっと追いつくのに――。
     結局、その背中に追いつくことはできなかったが、彼の姿が登山口へ消えてから間も無くのこと。ズンズンと勢いよくこちらへ向かって歩いてくるバデーニが視界へ入った。
     登山口へ入ってすぐ引き返してきたのであろう彼の手には、二輪の花が握られている。
     オクジーの前で立ち止まったバデーニはふう、と短く息を吐き出すと口を開いた。
    「これは君へ登山の達成感を感じさせてやれなかった、詫びだ」
     そしてオクジーの眼前へ紫色の花を突き出すバデーニ。彼の白い肌は、今にも火が噴き出るんじゃないかと思うほど真っ赤に染まっていた。
    「これで、せめて私とここに来たことは覚えておいてほしい」
     オクジーの顔のすぐそばへ差し出された花は、受け取るまでそのままだと言わんばかりだ。
     微動だにしない目の前の二つの紫を、オクジーは両手で受け取る。
    「……もちろんです、バデーニさんとここに来たこと、ずっと忘れません。ありがとうございます!」
     そして、登山口にある車としては違和感のあるそれへ再び二人で乗り込むと、下り道を低いエンジン音を響かせながらゆっくりと下っていった。

     車を走らせて数十分ほど経った頃。
     律儀に花を握り続けているオクジーへバデーニは問いかけた。
    「……オクジー君。次回のデー……いや、外出、というのは、どのタイミングで決めるべきなんだ?」


     *


    「だから俺はこの花が好きなんです。種類も何もわからないけれど」
     バデーニからの返事はない。
     違和感を覚えたオクジーは顔を上げると話題の中心人物であろう彼はテーブルの向かい側へ突っ伏していた。
    「あの、覚えていないんですか?」
    「……覚えているに決まってる」
     そう言った彼の耳は熟れたリンゴよりずっと真っ赤だ。
    「だが、そのエピソードはもう話してくれるな。恥ずかしくて敵わん」
     切り揃えられた前髪と腕の隙間から、こちらを伺うように二つのブルーグレーが覗いた。
     その様子を見たオクジーは思わず漏れ出そうになる笑みを堪えて応える。
    「わかりました。もう話しません。けど俺はずっと覚えています。だって、大切な思い出を覚えていられるように、こうして形に残したんですから」
     そう言いながら、押し花の栞を指でそっと撫でるオクジー。向かいに座るバデーニは無言のままその様子を眺めている。
     彼からの返事がないことを確認すると、オクジーは開いていた本へその栞を挟み、パタリと閉じてから机上へ置いた。
    「じゃあ、デートの日程を決めましょう!俺、来週末休みになったんです。だから、せっかくなんで登山しませんか?朝六時に、あの公園の駐車場集合で」
    「……あぁ、いいだろう」
    「山に登った達成感、味わわせてください」
     そして、どちらからともなくキスをした。

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