虚ろなる決闘 象牙色の巨大な柱がいくつも倒れた開けた遺跡に、一人の魔女が立っている。腰に差したレイピアの鞘に左手を掛け、レースのリボンが掛けられた帽子の大きなつばの下から挑むように蒼穹を睨み上げて。
未だ誰にも踏み荒らされぬ雪のような白い布と潔癖な銀の金具で構成された衣装が、駿馬のように鍛え上げられた彼女の体を包んでいる。伸縮性のある生地で作られたジャケットとパンツは持ち主の体にぴったりと沿い、左肩に掛けられたマントは貴族家の旗のように誇らしげに靡いている。騎士然とした立ち姿は遠目に見ても圧倒的な存在感を放っていた。
「やあ。君があの手紙を寄越したソレイユ卿かい」
ふと背後から声をかけられ、彼女は振り返る。そこに立っていたのは、すらりと背の高い細身の男性だった。決して堅くはないが清潔感のある服装をしていて、人好きのする柔和な笑みを浮かべている。大魔法使いフィガロ。人畜無害そうなその容姿は、伝え聞く数多の非道な噂話とはおよそ結びつかない。
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