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    kei

    @47kei

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    霊木解体(2)
    前 : (https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=1425184&TD=4113548)

    ##企画:colors

    季節は夏を迎えて日差しは強く、これまでにない形で子を孕んだジブリールは日々辛そうだったが、彼の世話をするという名目で、二人の生活する離れに自然と足を運ぶことができるのは行幸だった。
     セッカは医学博士であったし、ヴィトロは執政官で彼の上官になるので不自然さはない。慈悲王幽達の変化を見るには都合がよかった。
     ベッドに横たわるジブリールの傍ら、ちらりと向かいの幽達を見れば、空気のような従者と共に静かに番を見つめていた。
    「倒れた際に、すぐ抱えたから外傷はない」
     いつでもこの男は涼しげな眼差しをしていて、為政者の性質はどこかヴィトロの養父に似ている。銀色の髪は、花守山の民が生来もつ銀髪といえるだろうが、少し鈍い沈んだ色をしていて、隣にいる従者も同じだった。感情の猛りのない落ち着いた色彩の銀髪は幽達の持つ印象そのままだ。
    「倒れたのも季節的なものと、体力低下だろう。ちゃんと食わせろよ」
    「必要なものがあれば、取り寄せよう。熠燿はアシュタルの出だ。祖国の食べ物が口に合うと思うが」
    「柘榴とか西洋李とかがいいと思うぞ」
     セッカがジブリールの額に冷えた布を充てがうと、幽達は進んで仕事を引き継いだ。長い指でもう一度布を折りたたみ、額の汗をゆっくりと拭いてやる。
     仕草には愛情が見える。
    「この子は絶対に産んでみせます。王様からの贈り物なのですから」
     不調が顔に出ているジブリールに対して、幽達は表情は変わらないままだが番の額を優しく撫でた。
    「熠燿、いまは眠るといい」
     幽達の指の背が頬を滑ると、抵抗なくジブリールは目蓋を閉じる。
     仙術を使ったのが空間にほのかに浮いた金色の粒子で分かった。
     慣れた手付きでかけたままであった番の眼鏡をとると、ベッドサイドに置き部屋を出ていく。残っていた従者が花守山式の礼の姿勢を取り、なにかあればまたご助力を願います、と主人に代わって礼を言って追随して消えた。
     ヴィトロは何とも思わなかったが、視線を隣のセッカにやると不機嫌そうにしている。離れを出るまでは具体的な不満を口にはしなかったが、夏の日差しを銀髪に受けるとすぐに「あの野郎、礼のひとつもなしか」とぼやきだしたので、ヴィトロは宥めた。
    「セッカ、私には彼からジブリールへの個人的な感情があるように思えます。霊木の影響が少なからずあるとしても、若木はまだ成長しきっていない。小さな火種でしかありません。衝動として影響はあっても、行動自体を制御するような力があるとは思えません。彼の変化の可能性を、受け入れる余地はありませんか」
    「王として行動を起こさないと?」
    「霊木による干渉はするほうもされる方も安全ではないと箱庭試験で感じたまでです」
    「直接幽達に干渉するのが宰相だからな。仙術を扱う感覚が鳥人にはないしな」
    「そうです。冬清王殿下の移し身、花守山の仙術耐性がある体であるとしても、宰相にも危険が及ぶ可能性があります。解体だけでも相当の負荷がかかるのですから、二兎を追うべきではないと思うのです」
     セッカは日差しの中で歩みを止めたが、ヴィトロは静止に気づかず数歩前に進み、のち振り返った。
    「ヴィトロの考えも尊重するけど、俺は妄執は断ち切るべきだと思う。解体時にしかチャンスはないし、あいつに誰かを慈しむ心があるとしても妄執の前では無力だ。ジブリールのためじゃない。シロツメ公主のためでもない。生まれてくる子供のためだ」
    「私が親なら、生まれてくる子供に息苦しさを与えたいとは思いません。国家転覆を図った叛徒の子だと言われる未来が見えているのに、それ以上の罪を重ねるとセッカは思います?」
    「だからあいつは、自分の正義を突き通すために王として生きようとするんだろう。自分が頂点になれば、誰に指をさされることもない」
     セッカは自分とは視点が違うヴィトロを尊重している。経験も感情の置き場も違う。だからこそ冷静な視点を得ることも、沸騰するように熱い思いを見ることもできる。
     見えてくるものがお互いの会話の中に必ずある。 
     だが焼け付くような夏の熱射と対話を続ける気分にはならない。セッカはヴィトロの背を押した。
    「続きは部屋で話そう。冷たいものを食べたい」
    「はい。アイスクリーム、たべたいですね」



     夜も更けた頃、公邸の離れから出ていく人の気配をセッカの銀色の目が捕らえた。
     二度瞬きして視野を仙術で補正する。影はセッカの視界から瞬時に消える速さで公邸の領域から抜けていく。
    「暗部を経験した動きだな」
     セッカ自身もアルテファリタの夜の街を追い、屋根の上を走る。
     眼下ではアルテファリタの夏の夜が煌めいていたが、セッカの視線は前方を走る気配からは目を逸らさない。セッカの推測では影は幽達に仕える従者だ。
     名前を覚えている。茉莉(まり)だ。
     まだ自分が母国で主人と行動を共にしていた時に何度も見ている。
     宵闇にまぎれて慈悲王派閥の誰かと接触するつもりだとセッカは読んでいる。
     国を追われた幽達は、冬清王亡き後自作自演とはいえいち早く婚姻政策をとりアシュタルと調停を為し人民に支持された。彼の政治思考が支持されたという事実は大きい。
     その時に彼が得た支援者や派閥は複数で巨大であったため、制裁をうけて処分が決定したあとも、まだ後ろ盾が消えた訳ではない。
     セッカはこの状況を黙って見過ごす訳にはいかない。
     知をもって国に最良を招くことが、叡智の頂点セッカの号を持つものの使命であり、冬清王が望んだ理想の国家だった。
     幽達が再び母国を乱そうと企むのであれば、阻止する使命がセッカにはある。こうして離れを昼夜監視しているのもそのためだ。
     だが夜に暗躍がある度に追っても、手練の従者に追いつくことはできない。
     今日も同じ場所で従者茉莉を見失い、セッカは肩で息をしながら毒づいた。
    「クソ……絶対尻尾を掴んでやるからな」
     基礎鍛錬が足りなすぎる。
     かつて暗部で得た体術も錆びつつあることを痛いほど感じる。セッカはアルテファリタの銃士たちと共に鍛錬を積もうと決めて自分の背の方角にある公邸の方角へ向き直った。
     大事なひとはまだ起きて本を読んでいるだろうか。
     あくびをしながらページをめくる手が浮かぶ。彼を悲しませるようなことはしたくない。優しい心根を傷つけるようなことはしたくない。
     虚空へ手を伸ばして手の上にある公邸をぎゅっと握りしめた。



    「その後体調の悪化はありませんか」
     セッカの診察を受けたのちに、ジブリールがシロツメ公主に声を掛けた。
    「私の方が数ヶ月ほど早いので、私の診察結果が多少は……公主の診察の役に立てばいいのですが。母体の素地が違うので参考になるかはわかりませんが」
    「ありがとう。あなたも大事にしてくださいね」
     いい?とひとつ断りを入れてからシロツメ公主はジブリールの腹にそっと手をのせる。
    「いいこ、いいこ」
     シロツメ公主が優しく腹を撫でるのを見てジブリールはなにか口にしようとして、躊躇してを数回繰り返して、やっと音にする。
    「あの……公主は危険を犯してまでどうして手助けをして下さるのですか」
    「はい?」
    「私たちは夫妻に取り返しのつかない傷を負わせました。花悠王の執念を焼き切るとしても安易なことではないと説明を聞いていて思います」
    「誰かを助けることに理由が必要ですか」
     でも裏があると思っても仕方がないですよね、と続けてシロツメ公主は手を離して自らの腹へ寄せた。
    「あなた達を恨んでいると言ってあげた方が、あなたは苦しくないでしょうね」
    「私にはメリットしかありません。あの人と一緒にいることは貴方がたにとって不穏でしょうに。復讐とは思えません」
    「私はたとえ妄執を断ち切ったとしても、幽達が本当に悪行と謗られるような行いをやめるかどうかは分かりません。でも彼を愛するあなたを信じることはできます」
     シロツメ公主は下がり眉をさらに下げて儚げに微笑む。心中を駆け巡る思いを一言で説明するのが難しいのはお互い様だ。
    「あなたは誰かを愛して涙を流せる人だと分かったから、過去のことは置いておいて、信頼をしているのですジブリール」
     長い沈黙だった。
     シロツメ公主は伝わらなかっただろうか……と改めて言葉を探そうとしている。
    「幽達様はとんでもない男なのですけど──私を救ってくださったのです。宰相の振り下ろした一太刀から庇った時に、血に濡れるのも厭わずに彼は傷口を抑えて治療をしてくれた。変な話しでしょう、お互いが使い捨てのつもりでした。利用価値が尽きれば終わりだったのに。あの時彼が私を若木の妖精格だと認識していたかどうかは分かりません。認識していた場合は、彼が私を殺さねば若木の力を得られない訳ですから、生かしたのだとそう思いますが……でも、違うと思うのです」
    「なぜ?」
    「一太刀を受けて逆らう力すらない私が腕の中にいたなら、これ幸いと私を殺しているからです。あの人はそういう方です。私は彼の心を信じます。そして貴方の言葉を。誰かを助けることに理由はいらない」
     下げた眉をシロツメ公主は少しだけ上げて笑った。
    「あなたのおかげで大事なことを思い出しました。ヴルム様も最初はとても冷ややかな態度で私に接していたことです」
    「そうですね、私が必要最低限の情報しか与えずにコントロールをしていましたから」
    「事実を確かめる術はありませんが……私たちは霊木の影響がなくとも、時を重ね歩み寄り愛を育んできたのだとそう思えます。こんなことにこだわっているなんて馬鹿みたいですよね? でもずっと誰かの意思のために生きてきた私には、自分の意思で決めたことに価値があるのだと──」
     そこまで言って、シロツメ公主は顔を赤くした。
     自分語りをしてしまうなんて恥ずかしいと、袖で顔を隠すようにした。
     花の妖精と呼ばれる花守山の公主たちはみなこのように素直な生き物なのだろうか。ジブリールは思わず頭をポンポン、としてやりたくなったがぐっと堪えた。
    「公主の考えを知ることができるのは嬉しいことです。過去の精算を成したとは言えませんが、許されるなら前向きにあなたと接することを許して頂けますか」
    「もちろん」
     返事をしたところで、ヴルムが診察の様子を伺いに顔を出した。
     終わりましたと告げると彼はすぐに公主を抱き上げる。
    「ヴルム様? なにかお急ぎですか」
    「幽達と顔を合わせて挨拶をする気にはならないだろう」
     ヴルムの言葉の意味はすぐ分かった。入れ違いになるようにして幽達がやってくる。ヴルムは妻の視界に入れないようにして、するりと部屋を出た。
     目も合わせないヴルムに対して幽達も思う所はないらしい。互いに存在がなかったかのようにそれぞれの番を見ていた。
    「シロツメ公主と一緒だったのか」
    「診察の都合上少しの間だけです。話すこともありませんので」
    「そうだろうな。経過はどうか」
    「問題ありません。早産の危険だけは意識するようにと」
     幽達は側に控えた従者茉莉へ視線をやる。
     何の意図かはジブリールには未だ分からないが茉莉は手にしてい西洋李数個をジブリールに手渡すと部屋を出た。
    「食べられるか」
    「もちろんです。食欲はあります」
    「落とすなよ」
     それだけ言うと彼は椅子に座ったままのジブリールを掬い上げ腕に抱いた。日中の公邸でこんなことをするのは先程のアシュタル宰相夫妻くらいだ。
    「わ、あ、あの、幽達様」
    「二人分で重いのだからあまり暴れるな」
     先程見送った仲睦まじい夫妻を羨ましそうに見る視線に気づいたのだろうか。抱き上げたまま幽達は離れに戻る道を進み出す。
     なんと言葉をかけていいか分からずにいたが、彼は自分が誰かに羨ましいと思う視線を察っしてくれた。
     これだけは確かなことだとジブリールは思った。
    「幽達様、お願いがあります」
    「なんだ、お前は本当に欲しがりだな」
    「番のしるしをください。先程ちらりとでも、ご覧になったでしょう。シロツメ公主の首元を飾るものがあったのを。アシュタルでは番に首輪を贈るのです」
    「自慢でもされたのか」
    「私だって欲しいのです。いけませんか」
    「道具の印を刻みたいとは殊勝なことだ」
     そうではないですけど、と唇を尖らせると甘い茉莉花の香りが鼻を掠めた。
    「それだけ欲しがりなのだから、私が欲しいものも、お前は分かっているのだろうな」
     ジブリールは一瞬だけ答えに詰まったが、誤魔化すように番の頬を突いた。
    「夜のお相手はできません」
     幽達は鼻先で軽く笑うだけでそれ以上は何も言って来なかった。



     アシュタル宰相夫妻第一子の名がシラユリと定められたと報を受けた時、霊木解体は最終段階に入った。
     シラユリより数ヶ月早く生まれた幽達とジブリールの子鳳遊は、世界中に出産の報が駆け巡ったシラユリとは逆にごく少数の人々にのみ知らされた。
     「大儀だった」と幽達が褒めてくれて、あたたかい子を抱いていられるだけで十分だった。あなたの子です、共に育てて行きましょう。ここに幸福がありますとジブリールは懸命に伝えたつもりだった。面差しも髪の色も羽も白く抜けるように美しい我が子は、番の持つ宿命を断ち切れる力があると信じたかった。
    「熠燿、アルテファリタでの隠遁もそろそろ終わりだ」
     聞きたくないと思っていた言葉が耳元で囁かれた。月のきれいな夜に組み敷かれ囀り尽くした喉から、音もなく悲しみがこぼれた。
     彼は宿命から逃れることはできない。その身に花悠の執念を残す限り、王であることを止めることはできないのだ。
    「まさか私と鳳遊を置いていかれるおつもりですか。私はあなたの道具でしょう? あなたがどんな道を選んでも私は付いていきます」
     深刻にならないように告げた言葉を背に受けて、幽達は開け放ったままの窓の外にあがった月を見ている。返事はない。
    「野望権謀、悪巧みもご随意にと申し上げたはずです」
     幽達は振り返りジブリールの髪を撫でると、声を潜めた。
    「欲張りだな」
    「あなたも同じではありませんか。私と鳳遊がいれば十分なはずなのに、それ以外のものも欲しいというのですから」
    「欲しい。せねばならない。そうでなければ私は、花悠の身を持って何のために生まれてきたのか」
     答えを求めて放たれた言葉ではないにせよ、ジブリールには刺さる言葉だった。
     何のために? ───私を、鳳遊を、幸せにするためにですよ、あなた。
     あなたがいなくては、私はもう飛べない。
     そうしたのはあなたですよ、幽達。
     高ぶる感情を抑えてジブリールは幽達の長い銀髪を撫でた。
    「準備はされてきたのでしょう。花守山には誓約を受けて戻れないと聞いていましたが」
    「誓約といえど力の源は霊木を由来としたものだ。霊木の力を使えば書き換えることができる」
     妖精格の私を殺すなら、殺せばいい。刺し違えてやってもいい。
     ジブリールは赤い瞳を伏せシーツに皺を作る。
     残される子供のことも考えないで与えたのなら、幽達の愛はなかったのだと思いきれる。
    「シロツメ公主が第一子を出産しアシュタルも花守山もお祭り騒ぎだ。あちこち手薄になった今なら拉致も容易いことだろう。既に手のものがアシュタルに回っている」
    「シロツメ公主とヴルム卿をお使いになるのですか」
    「ほかに霊木に接触し誓約を書き換える方法はないだろう」
     この話はここまでだと耳元に吐息を被せられて、ジブリールも思考力を奪われた。
     だが朝、ひとり身体を起した時には強い決意があった。
     霊木を必ず解体し、幽達の持つ宿命を、焼き捨ててやるのだと。
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    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3449166.html
    ⇒ 繕うものたち
    二胡を弾く手を止めたのは、シロツメ公主の夫、アシュタルの護国卿ヴルムだった。
     気分よく聞いてくれていると思っていたので、驚いて弦を落とした。
     落ちた弦を夫が拾うが、ヴルムはシロツメ公主へ手渡さない。
    「聞きたいことがある」
    「な、なんでしょう、ヴルム様」
     一呼吸置いて、ヴルムは自分が感情的にならないように、意識して続けた。
    「お前に冬清王という婚約者がいたのは聞いてる。それがお前の目の前で死んだという話も聞いた」
     誰からそれを聞いたのか、と思うが答えはすぐにでてきた。アシュタルにはシロツメ公主を監視する目がいくつもある。その一つは直接慈悲王と繋がっている宰相ジブリールだ。
     シロツメ公主の視界が暗くなるのがヴルムにも分かったが話は止めなかった。
    「その婚約者は、アシュタルが殺したのか?」
     
     もう六年以上前のことだ。冬清王潤越とその従者セッカと三人で、国主領の山間に花見に出かけた。手を引かれ時に抱き上げてもらいながら、美しい景色を楽しんだ。
     今ならば行かないでと大泣きをしてでも止めただろう。
     戦時中とはいえ、国主宮も近いその丘が血塗れの惨状になることなど、だれも想像して 7531

    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3457535.html⇒ 引き離せないもの三国を探し歩いても、これほど同じ顔の人間などいないものだ。
    「何だお前は」
     向き合うヴルムとセッカは同時に同じ言葉を発した。ヴルムは敵対心を持って、セッカは既視感を持って。
     似ている、というには似すぎている。冬清王の若い頃は知らなかったが、記憶の中のかつての主人の姿がきれいに重なり、目眩すら覚えた。
     しかも今シロツメ公主はこの男をヴルム様、と呼んだ。
     護国卿ヴルム、シロツメ公主が嫁入りした男の名前だ。
    「セッカ、離してください」
     シロツメ公主はヴルムの姿を認識すると、セッカへ警戒心を強めた。
     慈悲王がシロツメ公主に直接使者を送り、使命の遂行を即したことが一度だけあった。
     使者は冬清王と暮らした冬ノ宮で、短いながらも幸福な時を一緒に暮らした侍女だった。年が同じであったから再会した時は13歳で、彼女も嫁入りを控えていると、祝い事であるはずが暗い顔をしていた。
     「あなたが慈悲王から託された使命とやらを果たさなければ、実家も未来の夫の未来がない」と泣きながらすがりついてきたのだ。
     動揺するシロツメ公主の心が激しく揺れているうちに、その侍女一族は戦時中の反逆行為の濡れ衣を着せら 6140

    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3485521.html ⇒引き離せないもの(2)四十歳になったとかいう話を数年前に聞いたが、花守山の仙人たちはまるで衰えがない。ジブリールの報告を受け、思慮に更ける慈悲王は鋭い眼光のまま、黙していた。
     色素が薄く、空の雲と並べば溶けてしまいそうなほどに白い彼らは、その色の印象のままに清らかでいようとするし、争いと血の穢れを忌避し、残忍を良しとしない。
     ──と、いうが、後者は建前上のものではないかと、ジブリールは思った。
     この慈悲王という存在は、花守山において特に異質だと感じていた。
     穢れを忌避する姿勢はあるが、残忍で無慈悲なところは、花守山の民の本質からかけ離れている。身内で政権を奪い合う国主一族においても存在自体が異質に思えた。
     普通の人間であれば、個より全という帝王学を叩き込まれていてもここまで残忍な行いはできないと思う。彼は愛というものを知らないのだろう。
     シロツメ公主の教育過程を見ていたジブリールはそう結論づけていた。
     手心を知らないこの無慈悲な王に、失敗の報告をするのは恐ろしいが、避けては通れない。今後の方針を聞かずに独断で判断すればもっとひどいことになる。
     慈悲王幽達から託された霊木再生の施策──代理人に 6027