胡白(こはく)
DONEさめしし/LiA後のさめししがハワイに行く話さめ→ししです
【#2023しょくさい 書き下ろし】
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Longing for Hawaii「獅子神さん、お仕事中にすみません!お客様がいらっしゃってますが……」
仕事部屋の扉をノックした園田の声が聞こえる。来客の予定などなかった獅子神は、仕事部屋のパソコンに目を向けながら「来客?誰だ?」と声を返す。すると間髪入れずに扉がガチャと空き、見慣れた黒髪の男が立っていた。
「私だが」
……園田が扉の脇で慌てている。おそらくインターホンを押し、獅子神と用事があるなどと噓を吐き、玄関を開けた瞬間に勝手に中に入ってきてこの有様なのだろう。もうこの男の横暴ぶりにも嫌でも慣れたものだった。
「ったく、来るなら連絡くらい寄こせよ、村雨……それで、今日は何のご用事で?」
「往診だ。ありがたく思え」
とんだ押し売りな医者が居たものだと呆れかえるが、かの有名な黒ずくめの無免許医のように法外な治療費は請求されないだろう。今取り掛かっている作業を終えてから行くので、リビングで待っていてもらうように彼に伝えた。
7244仕事部屋の扉をノックした園田の声が聞こえる。来客の予定などなかった獅子神は、仕事部屋のパソコンに目を向けながら「来客?誰だ?」と声を返す。すると間髪入れずに扉がガチャと空き、見慣れた黒髪の男が立っていた。
「私だが」
……園田が扉の脇で慌てている。おそらくインターホンを押し、獅子神と用事があるなどと噓を吐き、玄関を開けた瞬間に勝手に中に入ってきてこの有様なのだろう。もうこの男の横暴ぶりにも嫌でも慣れたものだった。
「ったく、来るなら連絡くらい寄こせよ、村雨……それで、今日は何のご用事で?」
「往診だ。ありがたく思え」
とんだ押し売りな医者が居たものだと呆れかえるが、かの有名な黒ずくめの無免許医のように法外な治療費は請求されないだろう。今取り掛かっている作業を終えてから行くので、リビングで待っていてもらうように彼に伝えた。
胡白(こはく)
DONEまふしし/マフツが風邪を引いた話(プラトニックなお付き合い1か月目のまふししです)
【#2023しょくさい 書き下ろし】
風邪を引いた話『獅子神さん、助けて〜!僕死んじゃうかも!』
「は!?待ってろ、すぐ行くから!!」
土曜の昼過ぎ、今日は株式市場も休みで、特段急ぐ仕事もなく、時間をかけてカレーでも作ろうかとキッチンに立っていたところだったが、真経津から冒頭の電話がかかってきて家を飛び出した。
あの一言を最後に、真経津に何度かけても電話が繋がらない。強盗に入られた?それとも、怨恨のある人物からの報復?最悪の想像をしながら、獅子神は急ぎ車を走らせた。
真経津のマンションに着くと、インターホンは押さずに合鍵でエントランスを抜ける。鍵は持たされているがいつも勝手に入るのは忍びなく、なんとなく真経津に開けてもらっていたが、非常事態のようなので致し方ない。
3246「は!?待ってろ、すぐ行くから!!」
土曜の昼過ぎ、今日は株式市場も休みで、特段急ぐ仕事もなく、時間をかけてカレーでも作ろうかとキッチンに立っていたところだったが、真経津から冒頭の電話がかかってきて家を飛び出した。
あの一言を最後に、真経津に何度かけても電話が繋がらない。強盗に入られた?それとも、怨恨のある人物からの報復?最悪の想像をしながら、獅子神は急ぎ車を走らせた。
真経津のマンションに着くと、インターホンは押さずに合鍵でエントランスを抜ける。鍵は持たされているがいつも勝手に入るのは忍びなく、なんとなく真経津に開けてもらっていたが、非常事態のようなので致し方ない。
胡白(こはく)
DONE園しし/雑用係が追い出される話LiA後です
【#2023しょくさい 書き下ろし】
共に在るために「あーそうだ。園田、もうここから出ていけ」
「え」
突如、雇用主である獅子神からそう告げられ、キッチンで洗い物をしていた園田は手に持っていた皿を落としそうになった。
この家には、家主である獅子神と、住み込みで働く元奴隷・現雑用係の二人が暮らしている。
以前、獅子神が4リンクで傷を受けて帰ってきた際に奴隷全員が追い出されるはずであったが、あの有名な湯屋のアニメ映画さながら「ここで働かせてください!」なんて二人して頼み込んでその後も置いてもらっていた。
それぞれに事情があったが、『金に溺れたことが理由で、頼る当ても繋がりも全てを失っていた』という点で、彼らは共通していた。ここを追い出されたら、行く場所がない。過去の知り合いとの繋がりもない。それならば、住む場所も食べるものも享受できるこの環境に身を置き続けたい、と願うのは、普通のことではないだろうか。むしろ、園田自身は二人しか残らなかったことに驚いていた。
4659「え」
突如、雇用主である獅子神からそう告げられ、キッチンで洗い物をしていた園田は手に持っていた皿を落としそうになった。
この家には、家主である獅子神と、住み込みで働く元奴隷・現雑用係の二人が暮らしている。
以前、獅子神が4リンクで傷を受けて帰ってきた際に奴隷全員が追い出されるはずであったが、あの有名な湯屋のアニメ映画さながら「ここで働かせてください!」なんて二人して頼み込んでその後も置いてもらっていた。
それぞれに事情があったが、『金に溺れたことが理由で、頼る当ても繋がりも全てを失っていた』という点で、彼らは共通していた。ここを追い出されたら、行く場所がない。過去の知り合いとの繋がりもない。それならば、住む場所も食べるものも享受できるこの環境に身を置き続けたい、と願うのは、普通のことではないだろうか。むしろ、園田自身は二人しか残らなかったことに驚いていた。
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DONE #2023しょくさい☔🦁展示作品です。砂浜デートしながらおしゃべりするだけの2人です。
ベッターで読みたい人用↓
https://privatter.net/p/10397480
登場する固有名詞については検索していただければだいたいどんな感じのものか分かると思います。動画(youtube)でみると思いのほかキモイのでオススメ。
2024/04~7月静岡県美術館で見られます。
那由多の砂浜「さっっっむ」
雨は降らない程度の曇天。風は冷たく、獅子神は羽織ったジャケットの胸元を掴んだ。傍の村雨は風に煽られて珍しく額があらわになっている。髪どころか身体も少しよろめいておりグラスコードがチリチリと忙しなく揺れている。
「ダハハ! 先生、手繋いでやろうか? 飛んでいっちまいそうだぜ」
「照れ隠しのジョークのつもりか? あなたにしては良い判断だな。さあ、手を繋いでもらおうか」
赤面して「飛んでいっちまえ」と返す。いつまでたっても獅子神は村雨に墓穴を掘る。手は繋いでもよかったのに。おい、わかってるならその顔をやめろ。
海水浴シーズンでもない季節。獅子神が幼い頃に夢見ていた南の島でなく、国内の少し寂れたなんの変哲もない砂浜。磯臭さとべたつく潮風。海は青というより黒に近く、尽きることなく白い波がうねり打ち寄せていた。
4200雨は降らない程度の曇天。風は冷たく、獅子神は羽織ったジャケットの胸元を掴んだ。傍の村雨は風に煽られて珍しく額があらわになっている。髪どころか身体も少しよろめいておりグラスコードがチリチリと忙しなく揺れている。
「ダハハ! 先生、手繋いでやろうか? 飛んでいっちまいそうだぜ」
「照れ隠しのジョークのつもりか? あなたにしては良い判断だな。さあ、手を繋いでもらおうか」
赤面して「飛んでいっちまえ」と返す。いつまでたっても獅子神は村雨に墓穴を掘る。手は繋いでもよかったのに。おい、わかってるならその顔をやめろ。
海水浴シーズンでもない季節。獅子神が幼い頃に夢見ていた南の島でなく、国内の少し寂れたなんの変哲もない砂浜。磯臭さとべたつく潮風。海は青というより黒に近く、尽きることなく白い波がうねり打ち寄せていた。